先月にブログ『外れ値として生きてゆきたい』で、イスラエル軍がAIを使ってガザの攻撃先を決めている話を書いたが、元ネタの記事を今日クーリエ・ジャポンが日本語にしていた。
【調査報道】イスラエル軍の「殺害リスト」は人工知能が生成したものだったこのボリュームで全5回の内まだ1回目でしかないが、そもそもの元ネタがすごい量だから致し方ない。
さて、かなり久しぶりに南アフリカのニュースを。
なんか最近の南アフリカってオレが住んでた頃より治安が悪くなってるような気が…と薄っすら感じていたのだが、気のせいではなかった。
最新の情報でみると、殺人は27,494件/年で1日平均75人が殺されている。強盗は1日平均400件。
悪くなっているというか…統計的にはほぼ一緒な(ちょっとだけ今の方が悪い)のだが、下がり続けていた犯罪率がここ数年で急激にV字悪化してるから特に悪くなっていると感じるのかも。
現金輸送車(CIT)強盗も最近流行ってるなぁ~と思っていたが、今は平均1.5日に1台が襲われるのに対して、調べたらオレが住んでいた頃は平均毎日1台だった…
動画のように自動小銃で武装した集団が襲って来て、現金輸送車を爆破して中の現金を奪う。
今の南アの治安の悪さってオレが住んでいた頃とほぼ一緒かぁ…と考えると、なんだそんなもんかと思っちゃうのが怖い。「治安が悪化してるから今は危なくて行けない」とかじゃなく「オレが住んでた頃くらいでしょ?普通に行けるじゃん」と思っちゃう。
大体、愛車は現金輸送車です!とか、空港で車をレンタルしたら現金輸送車のキーを渡された!って人以外は現金輸送車強盗とか何の関係もないから。
現金輸送車を見かけたら、万が一の銃撃戦に巻き込まれないようにちょっと多めに車間距離を取るくらいでしょ、一般人が意識するとしても。
さて、数カ月前に南アフリカをざわつかせた事件がある。
今年2月19日、西ケープ州サルダナでジョスリン・スミスちゃん(6才)が失踪した。
2週間後に、自宅から1km離れた野原でジョスリンちゃんの血が付いた衣服と、地面に刺さったナイフが発見されるが、本人の発見には至らず。
そこで、警察犬部隊の他、南アフリカ海軍(サルダナは海軍基地がある)や地元消防団も加わった大規模な捜索が行われた。
さらに西ケープ州警察の重大凶悪犯罪対策課と、誘拐対策チームが合流して捜査の指揮をとった後、事件は大きく進展。
警察は容疑者4人を逮捕し、容疑者たちを36時間ぶっ続けで尋問した結果、容疑者の2人が自白。
36時間ぶっ続けで尋問って…それ自体が拷問なんじゃ?とは思うが、とりあえずスルー。
人身売買と誘拐の罪で逮捕・起訴されたのはジョスリンちゃんの実の母親ケリー・スミスと、その恋人を含む4人。
母親は、ジョスリンちゃんを2万ランド(約17万円)でサンゴマ(信仰治療師)にムティ(伝統薬)の材料用として売ったとされる。
え?言ってることが分からない?
分かりやすく言えばシャーマン的なサンゴマが調合する神秘のお薬ムティの材料に人間の部位を使うと効力がアップすると信じる人が根強くいる南部アフリカ。
需要と供給で、材料になりそうな人間を誘拐・殺害・解体する闇シンジケートや、人体の部位を売買する闇マーケットがあったりするのだが、ケリー・スミスの場合は金欲しさにムティの材料用にと自分の娘を17万円で売ったと。
ちなみに、未だにジョスリンちゃんの身体は発見されていない。
起訴内容が事実だとすれば、ジョスリンちゃんはバラバラにされてムティの材料として調合されてしまっていて、身体が見つかることはなさそうだけど。
ケリー・スミスはティック(クリスタルメス)中毒者で、売人に借金があったという報道もあるが事実関係はまだ分からない。公判が始まったばかりだ。
Muti murders in SA: Has Joslin Smith fallen prey to ‘occult economy’?
この記事の最初に未だ行方不明のジョスリンちゃんの写真が出ているが…
その右の写真になんだかすごく見覚えがある。
これって…
完全にオレの写真だな。
ヨハネスブルクのムティ材料ショップで撮ったやつ。
誤解なきように言うと、基本的にサンゴマが調合するスタンダードな合法ムティは、こういうショップで売られているような植物や動物を原料にして調合する。
漢方医みたいなサンゴマが調合する漢方薬みたいなムティってイメージ。
ただ、科学的根拠がないにもかかわらずトラの骨やサイの角や象牙が漢方薬として効果があると信じている人がいるように、人間の部位を使ったムティにも特別の効果があると信じている人もいるってこと。
上に挙げた南アのニュース記事内にも書いてあるが…
より強力な効果を出すために“純粋性”が必要と考えられているため、必然的に子供が狙われる。
あと、殺してから身体をバラバラにするんじゃなくて、生きている状態でバラバラにしていくのが大事らしい。
体の部位は人間の生命の本質を保持すると信じられているため、体の部位が取り除かれる時に被害者が生きている必要があるというのと、子どもの叫び声が魔法の力を目覚めさせるから、だそうだ。
2022年に殺害されたボントルちゃん(6才)の場合は、逮捕された容疑者がサンゴマの指示でボントルちゃんの子宮とヒザを切り取ったと自白。
子宮は生殖を象徴してるし何となく分かるが、ヒザって何?!
同じ関節でもヒジではダメな理由が何かあるんだろうな…
コラーゲン狙いの美肌効果だったら、ヒジでもいいじゃんって話だし。
ヒザが痛いクライアントのために、サンゴマが「めちゃくちゃよく効く」強力ブースト非合法ムティとして活発な子供のヒザを使おう!とか考えたのかな?
グルコサミンとかコンドロイチンですらサプリ摂取による効果にかんしては科学的根拠が未だ不十分って言われてるのに、ヒザにヒザ?!
かつて南アフリカ警察には世界で唯一のオカルト犯罪特捜部(ORCU)があった。
南アフリカ共和国の闇とオカルト特捜部形式上はすでに解散しているが、秘密部隊として地下に潜って現在も存在しているという噂もある。
“オカルト犯罪”という捉え方をしちゃうのは色々と問題ありと考えるが、ムティ自体はけっこう難しい問題だ。
効果に科学的根拠を求めるのはある程度は意味があると思うが、効果を“信じる”信仰心の部分が存在している限り色々と問題は残ったままになる。
ムティ殺人とは逆のケース。
2012年8月、マリカナ鉱山で労使問題が激化し暴動が発生。警察が“自衛のために”34人を射殺する『マリカナ虐殺』事件が起こった。
虐殺時の映像が残っているが、閲覧注意。
まぁ、色々な要因が重なって事件が起きたわけだけど…
調査委員会の報告でも明らかになっているが、この衝突時に暴徒たちはサンゴマが特別に調合した“無敵”になるムティを額に塗り込んでいた。
自分たちは無敵になった!とハイ状態だった、と。
だからと言って警察による実弾発射は正当化できないとしているが、暴徒たちが無敵ムティの科学的根拠をもう少し考えていたら…自動小銃で武装した警察にほぼ丸腰で「無敵だぜ!」と突っ込んでいかなかったかもしれないし、突っ込んでいなくても警察は発砲していたかもしれないが、ちょっとは違う結果になっていた可能性も少しはあるんじゃないかと思ったりなんかして。