はじめに
今回、北朝鮮へは北京にある北朝鮮専門旅行会社のツアーに参加して行きました。
出発前日に北京のオフィスでブリーフィングがあり、その時に他のツアー参加者たちと初顔合わせ。
ブリーフィングでは北朝鮮旅行時の注意などの説明を受けます。
写真撮影に関しては特に気を使うように言われました。
基本的には全て同行する北朝鮮人ガイドに聞いてから撮るようにとか、移動中のバスの車内からは撮らないようにとか。
場合によっては個人的にも、グループとしても、北朝鮮人ガイドにとっても深刻な問題になるので細心の注意をするように・・・とのこと。
北朝鮮旅行のポイントは、旅行者と北朝鮮人ガイドとの“信頼関係”にあるらしいです。
ガイドにはある程度の特権が認められていると同時に、リスクもあるそうです。
それは、旅行者の行動の全てに責任を負うということ。
例えば・・・旅行者が「夜に一人でホテルを抜け出して外出した」など規則を破ると、ガイドはその人を信用しなくなり、その人だけでなくグループ全体の行動を制限する可能性もあるわけです。
だってガイドは問題が起これば全て自分の責任になってしまうわけですからね。
逆に、こちらもオープンな感じで、ある程度は公正な態度(やたらと北朝鮮に対して攻撃的な態度をとらないとか)であれば、ガイドも旅行者を信用してガイドの権限の範囲内での自由を与えてくれるとのこと。
う~ん、ツアーに申し込んだ後だからもう遅いけど・・・
超めんどくせー!
というのが、最初の感想です。
ブリーフィングの翌日には北京首都国際空港から平壌まで移動してツアーは幕を開けます。
正直「やたらと制限された旅行」というイメージしかないので、楽しいのか楽しくないのか想像すら出来ない心境でした。
北朝鮮で最も危険なこと
北京から平壌までの足に利用するのは、北朝鮮のフラッグキャリアにして唯一の航空会社高麗航空。
英SKYTRAXが評価する世界620の航空会社の中において、唯一1ツ星(最低評価)を獲得している素敵な航空会社です。
安全管理に問題があるとして、EUには乗り入れ禁止になっているとか。
北京から平壌までは週に3便の定期便が飛んでいます。
基本的に飛行機が好きではないオレですが、今まで乗ったことのあるキャリアは華々しく、設立からわずか6年で倒産したエベレスト航空をはじめ、ロイヤル・カンボジア航空やイエメン航空など、知らぬ者がいないほどの有名キャリアにしか乗ったことがありません。
もしインドネシア軍の貨物輸送機を含めてもいいのなら、今回の高麗航空はオレにとって20社目のキャリアになります。
ボーイングやエアバスなどの“西側”の飛行機を持たない北朝鮮なので、高麗航空が所有する旅客機もツポレフかイリューシンになります。
今回、北京首都国際空港で待ち受けていたのは・・・
『イリューシン62M』
ソ連初の長距離旅客機として開発されたイリューシン62の改良型で、(改良型にも関わらず)開発されたのは1969年。
・・・おっかねー!!
確実に断言できますが、『北朝鮮ツアーで最も危険なこと』、
それは飛行機です。
無事に平壌に辿り着けたら、北朝鮮ツアーは無事に終わったようなもんです。
168名乗りのイリューシン62Mはほぼ満席。
胸に金日成バッジを付けた北朝鮮人もそこそこいますが、ほとんどが外国人観光客。
他の旅行会社からのツアーのようで、日本人の団体ツアーも見かけました。
機内はこんな感じ。
とにかく前の席との間隔がすっげー狭いのと、手荷物用の棚がビックリするくらい狭い!
離陸態勢に入っていないにも関わらず、エンジン音がうるさ過ぎて、なんかドキドキします。
離陸時には、神に祈る人も・・・
“勝手にリクライニング”機能が付いているシートも多々あり、背もたれに体重を預けると中途半端に後ろに倒れます。
ちなみに、オレのシートは“勝手にリクライニング”機能なし。
キャビンアテンダントによる、救命胴衣の説明もなし。
でも、機内食はちゃんと出ました。
これがまた・・・まずい!
肉が冷たい!
平壌までの1時間半のフライトは想像した以上に揺れたのと、自分とこの床がスポーンと抜けてシートごと海に落ちて行く妄想が膨らんだ結果、「無事に平壌に着けさえすれば、このツアーはもう満足です」と思ったりして。
一般的には、たとえ“着陸した後”でも飛行機が完全に停止するまでは席から立ち上がらないように言われるものです。
今回、いよいよ飛行機が平壌国際空港に降りようと着陸態勢に入り、機体が前傾しているその時・・・
スーツケースをガラガラとひきながら通路を駆け抜ける人が!
機体が前傾しているため、勝手に早足になるんでしょうね。
北朝鮮人、降りる準備はやっ!!
しかも、まさかのキャビンアテンダントの誘導ーっ!
呆気に取られて口が開いたままになっている他の旅行者と、ついつい見つめ合ってしまったのでした。
・・・飛行機のくせに自由席だったイエメン航空で、搭乗開始と同時に席取りのためにダッシュするイエメン人たちにドン引きしたオレですが、同じくらいドン引き。
ようやく平壌国際空港に到着!
帰りが列車でホントに良かった・・・
でも、敵であるアメリカ人は列車に乗れないので、アメリカ人だけ再度飛行機で出国しなければいけません。
可哀想に。
最後に、飛行機を降りる時にキャビンアテンダントに「写真を撮らせて」とお願いしてみたのですが、あっさり拒否されました・・・
飛行機のタラップに出ると、めちゃくちゃ寒い!
桜の咲く東京からやって来た身には北京も十分寒かったのですが、平壌の寒さはそれ以上・・・
いよいよ、北朝鮮入国
いよいよ、北朝鮮入国。
オレの場合、初めて行く国で一番ドキドキするのは税関なんです。別に日頃から怪しいモノを持ち歩いているわけではないんですが、難癖をつけて絡んでくる可能性が高かったり、何かと面倒な目に遭ってるのが税関でして・・・
ウクライナの時も「ワイロ払わなかったら入国させねぇ」とか脅されたりね。払わないですけど、面倒くさいんですよ。
沿ドニエストルの税関も、超うざかったし・・・
しかも今回、北朝鮮の規定では150mm以上の望遠レンズは持込み禁止というのを知らずに、18-200mmレンズ付き一眼レフカメラをわざわざ買ってしまって、仕方ないから知らないフリして持ってきたオレ。
さらに北朝鮮は携帯電話とかラジオとか持込禁止品がけっこう多くて、税関が面倒くさそうな感じなわけです。
ちょっとドキドキしながら税関に行くと・・・
荷物をX線に通しただけ。開けて中を見せることすらなし。
・・・あれ?
空港からは、外国人旅行者の受け入れ先機関である朝鮮国際旅行社(KITC)から来たガイド2人と合流します。
空港からホテルに向かうバスの窓から眺める景色は、まだ春が来ていないために緑が少なく、茶色い地面がむき出しで暗い印象を受けます。
「どこかでこんな感じの風景を見たなぁ・・・」と、昔の想い出を辿ってみると、親切だけどロリ好きなおじさんにウクライナからモルドバまで10時間ほど車に乗せてもらった時に見たウクライナの田舎の景色に似てる・・・
季節的に寂しい雰囲気が、どことなく東欧の冬を思い出させました。
さらに平壌市内に入っていくとスターリン様式の建物が現れ、やはり「どこかと似てる・・・」と昔の想い出を辿ってみると、ベラルーシの首都ミンスクみたいだということに気が付きました。
ま、ようするにバリバリの共産国家らしい街並みっていうんですか? スターリン様式風な威圧感のある建造物を好んで建てていますね。
「とりあえず写真を撮りたいなぁ~」と、オレ以外の皆も思ったようです。
誰かが「写真を撮ってもいいか?」と聞くと、ガイドから改めて写真撮影に関してお達しがありました。
「どこでも何でも写真を撮っていいですよ」
「ただし、軍人と検問所などの軍関係施設は撮らないで下さい」
えーーっ、何でもいいの?!
意外に意外~!!
後でイギリス人の添乗員と話をしたら、彼女からしても意外でビックリしたみたい。
なんでも・・・到着したばかりの空港からすぐに写真を撮りまくったりするツアー客も多々いるみたいですが、うちらは許可が出るまではきちんと大人しくしていたので、ガイドも信用したのではないか?とのこと。
ちなみにですけど、到着した興奮からついつい撮りたくなるものですが、後日にたっぷり同じような景色は写真に撮れたので焦らなくても大丈夫でした(笑)
平壌のホテル
今回泊ったホテルは羊角島国際ホテル。
客室は1000あり、47階部分は回転式展望レストランになっている、北朝鮮でも最高級ホテルのひとつです。
平壌市内を流れる大同江という川がありまして、その中州が羊角島と呼ばれています。
そんな中州に建っているのがこのホテルなんですが、幸か不幸か、島から出るには橋を渡らないといけないという、大変に宿泊客を“隔離しやすい”天然立地条件になっています。
オレの部屋は39階のツイン・ルーム。
この部屋を一人で独占することが出来ました。
旅行に行く前に「北朝鮮のホテルはやたらと鏡が多く、実はその鏡はマジックミラーになっていて、裏から監視されている・・・」などと聞いたこともありましたが、そうか?
部屋は至って普通でした。
それに・・・別に裏から見られててもかまわんし。
普通にカードキーでしたね。
冷蔵庫も置いてありますが、中は空っぽなので下の売店で水やジュースを買って入れておきましょう。
部屋からの景色は、平壌市内を一望できる最高の眺め。
川沿いの右側に、高さ170mのチュチェ思想塔が見えます。
遠くに見える巨大な三角の建物は柳京ホテルです。
ズームにしてみると・・・こんな感じ。
北朝鮮の財政状況の悪化に伴って建設が中断されていたホテルですが、2008年から16年ぶりに工事を再開。
完成予定は2012年とのこと。
後にガイドさんが「部屋数は3000室を誇る」と、ちょっぴり自慢げに話していました。
“国家の威信をかけた大事業だから、ドカーンとデカイのを建てる!”というのは「好きにしてちょーだい」って感じですが、需要と供給のバランスとか考えてるのかな?と疑問には思いましたけどね。
今年から中国人の北朝鮮観光ツアーが全面解禁されたらしく、それに伴って北朝鮮は2010年度の中国人観光客誘致目標に3万人を掲げているらしいです。
目標にするくらいだから、実数はそれよりも少ないはずですが、中国人以外の外国人観光客も合わせて年間3万人の観光客がくると仮定しましょう。
全員が4泊のツアーで、さらに全員が1人1部屋に泊ったとしても、平均1日330部屋しか需要がないはずなのですが・・・
すでにある羊角島国際ホテル(1000室)、平壌高麗ホテル(500室)だけでも余裕なのに、さらに3000室のホテルを建てて、敢えて市場原理を無視して供給過多に持っていこうしてる心意気が、何というか・・・「アニョンハシムニカ」って感じですよねぇ。
夜は外出できないので、ヒマ過ぎて旅行者が暴動を起こさないようにホテル内の施設は充実しています。
ロビーからホテル探検してみました。
インターネットも一応は出来るようです。
ホテルのビジネス・センターに、パソコンが1台あってそこが外界と繋がっているようです。
ちなみにですが、お値段は“25KB毎に2ユーロ”という実に恐ろしい価格設定になっています。
写真でも送ったら大変なことになります。デジタル一眼レフで撮ったRAW画像などは1枚で20MBくらいありますが、それを1枚送っただけで1638ユーロ(約21万3千円)!
北朝鮮でインターネットのことは忘れましょう。
ロビーで、こんな怪しげな看板を発見!
ボーリング場でした。
3レーンしかないけど。
あと、ホテルの前にゴルフのショートコースもありました。
他にも、バー、カジノ、ディスコ、サウナ、レストラン4~5軒、本屋、お土産屋、商店など・・・
毎晩、ツアーで一緒だった人たちと、バーやボーリングで深夜まで酒を飲んで騒いでいたので「外に行きたい」とは思わなかったです(笑)
外は寒いし。
食事も全てツアー代金に含まれているし、お金を使う場所がない北朝鮮で15,000円ほど使ったのですが、多分1万円以上は酒代・・・
たしか、ビールは大瓶1本が300円前後だったかな?
お金は、中国の人民元、USドル、ユーロ、日本円だったら何でも使えます。硬貨もOK。
中国に滞在してから行ったので、ずっと人民元で払って、人民元でお釣りをもらっていました。
外国人は北朝鮮ウォンを使えないし、ホントは手に入れられない(国外持出禁止)ですが、ホテルのフロントで「記念にするだけだからー! ちょっとだけだからー! あなたのことがちゅきだからー!」とチャンドンゴン風に言えば、両替してくれます。
初日から酔っ払って夜は更けていきました。