第4話に続く第5話。
このシリーズを始めたことを地味に後悔しつつある。
南アフリカから日本まで52カ国3地域を通って帰ってきたが、まだ序盤も序盤の南半球すら出ていない5カ国目のルワンダで5話目とは…気が遠くなる。
ゴリラはヤンキーパンダ
実は、アフリカ大陸最高峰キリマンジャロに登頂するか、野生のマウンテンゴリラを見に行くか、二択で迷っていた。
両方はお金の問題があってムリ。
ちなみに、2024年現在の費用でいうと…
キリマンジャロは入山料だけで830米ドル(約13万円)するから、ガイドやポーター代など諸々を考えると最低2~30万円はするかと。確か…単独登頂は不可でガイド同伴が義務付けられていたはず。
野生のマウンテンゴリラは、この地球上でコンゴ(DRC)、ウガンダ、ルワンダの3カ国の国境地帯の山奥にしか生息していないが、どの国で会いに行くかによって値段が違う。DRCだと季節による変動があって200~400米ドル(約3~6万円)、ウガンダだと800米ドル(約11万円)、ルワンダだと1500米ドル(約23万円)らしい。
少し悩んだ末に、オレはマウンテンゴリラを選んだ。
キリマンジャロはまた次の機会があった時までそこに存在し続けるが、絶滅危惧種のマウンテンゴリラが将来も必ず存在している保証はない。
次に、DRCとウガンダとルワンダの3カ国の内どこで会いに行くか?だが、これは実質的に二択になる。
ウガンダとルワンダのどちらで行くか迷って、オレはルワンダで行くことにした。
2024年の値段を見て「こんなに高くなってるのか!?」とビックリしたので、ここまで値段が違っている今ならウガンダを選ぶかもしれないが、それでも11万円か…行かないな。
他に考慮するとしたら、その時々の治安状況だろうか。DRCとの国境地帯の山奥という場所柄、たまにDRCからゲリラが越境してくることがあるので、そこは気にした。
ウガンダよりルワンダの方が会いやすい(ウガンダはがっつりトレッキングしないといけない)とか、それぞれに一長一短あるようだ。
ゴリラ・トレッキングには色々とルールがある。
ゴリラの負担になるため1日当たりの人数制限があるし、ゴリラの免疫力の問題があるので風邪を含めて伝染病にかかっている人は参加不可。
オレのように、体調が良くないのにムリをしてギコンゴロという村にあるムランビ虐殺記念館(UNESCO世界文化遺産)に行ったりすると、治りも遅くなって埃だらけの雑草を食わされたり、宇宙に行けるクスリを飲む羽目になるので体調不良時はしっかり休養に励むこと。
この平屋の建物には…
防腐処理を施されてミイラ化した遺体がびっしり置かれている。
何が一番きついって…ニオイ。何のニオイかは知らないが、嗅いだことのない独特なニオイが部屋に充満していて、体調不良時には行かないことをおススメする。
壁に叩きつけられて殺害された生後9ヶ月の子供とか、銃で撃たれ、ナタで叩き切られ、ナイフで目をえぐられ、こん棒で殴り殺され、手榴弾で粉々にされたルワンダ虐殺の被害者たちに囲まれた結果、オレの治癒力は低下した。
完治するまで1週間かかったが、病気をうつさないために完全復活してからゴリラに会いに行った。
ルワンダの北西部にあるヴォルカン(火山)国立公園は、最高峰の4500mを筆頭に3~4000m級の火山が連なる山岳地帯にある。
高地に生息するゴリラだからマウンテン(山)ゴリラなのだ。
めちゃくちゃ暑かった沿岸部のダルエスサラームを出て、アフリカ大地溝帯である内陸のキゴマまで来て以降、夜は震えるほど寒い。
ルワンダも平均標高が1600mある高原の国である。
風邪をひいて体調を崩したのも、内陸部に入って気温が下がったせいだろう。
ゴリラは毎日移動しているため、ゴリラを追って山奥まで入っていくことになるが、運が悪いと標高3500m辺りまで登る羽目になることもあるらしい。
ヴォルカン国立公園には4つのゴリラ集団がいて、当時最大だったのは35頭のゴリラ集団スサ・グループ。他は10頭前後で、本来はそれくらいが通常の群れサイズらしい。
どのゴリラ集団に会いに行くか?は、自分で決められる。
スサ・グループは最大だが、会うのも一番大変(ガチトレッキングの可能性があり)なため、オレと欧米人たちの4人。他の5人は年配だったのでもう少し簡単に会える別のグループにしていた。
ガイドを先頭に、護衛として小銃で武装したレンジャー3人に挟まれる形で山の中に入っていく。ゴリラから守ってくれるための護衛ではない、ゲリラから守ってくれるための護衛だ。
あれ?なんか想像してたのと違う。
竹林!?
鬱蒼と茂る竹林を奥へ奥へと入っていく。
もっと大変かと思っていたし、そう聞いていたのだが、1時間半ほど歩いただけでゴリラに会えた。ゴリラ次第なので、この日はめちゃくちゃラッキーだったようだ。
マウンテンゴリラは笹の葉やタケノコを食べる。
パンダじゃん!!
ルワンダ人が野生のパンダを見て「ゴリラじゃん!」と思うのかどうかは知らないが、オレは竹林で笹の葉を食べるゴリラを見てそう思った。
パンダより全然いかついけど。
こちらからゴリラに近づくのはダメだが、ゴリラから近づいてくる。
人間に興味をもって近づいてくるというよりは、自分の動線上に人間がいても威風堂々そのまま避けずに突っ込んで来る感じ。そんな時は人間が避けて道を開け、ゴリラと目を合わせてはいけない。
ヤンキーじゃん!!
ルワンダ人がヤンキーを見て「ゴリラじゃん!」と思うのかどうかは知らないが、オレは目を逸らしてゴリラに道を譲りながらそう思った。
子ゴリラだけは人間に興味を持ったのか走って近づいてきて、転げ回ったらすぐ走って逃げてゆく。
子犬じゃん!!
ルワンダ人が子犬を見て「子ゴリラじゃん!」と思うのかどうかは知らないが、オレは子ゴリラを見てそう思った。
つまり、ゴリラはヤンキーパンダで、子ゴリラは子犬である。
ちなみに…写真を撮るのがすごく難しかった。
鬱蒼とした竹林の中にいるので、ほぼ竹がメインの写真になる。
ピントがゴリラじゃなくて竹に合っていたり、全体的に薄暗いところにいるがフラッシュはヤンキーパンダを刺激するからダメなので手ブレばかりに。
DRCの存在
ゴリラがいないブルンジもそうだけど、ゴリラが生息しているルワンダとウガンダの国境地帯の危険度って、昔から(今も変わらず)お隣の大国コンゴ(DRC)の情勢次第ってところがある。
ややこしいことにコンゴという国が2つあるので、こっちのコンゴのことはDRCと呼ぶ。
DRCの首都キンシャサの視点で見ると、ブルンジ、ルワンダ、ウガンダと国境を接しているところなんて、ジャングルが広がるコンゴ盆地のさらにその奥にある“辺境の地”でしかない。
そのくせ、レアメタルの埋蔵量がとんでもない“金になる地”でもある。電気自動車やリチウムバッテリーに必要なコバルトは、世界の約7割がここで採掘されている。
そんな辺境の地にはDRC政府の実効支配も及びにくくて…大小120~140の武装勢力が入り乱れる群雄割拠の修羅の国と化している。
DRCは図体がデカいだけで、中身は腐ってるから全土を治めるだけの能力がない。
2024年3月現在の主な武装勢力の勢力図がこちら。
Borysk5, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
というわけで、昔からDRCとの国境近くが危ないっていうのは、修羅の国のやつらがたまに越境してきて襲って来たりすることもあるから危ないって話。
そんな危険なところと国境を接するウガンダやルワンダやブルンジはかわいそう!と思っちゃうかもしれないが、実は逆である。
金になる地の利権を巡って隣国DRCに介入しまくり&お互いにお互いの反政府勢力を支援して修羅の国にしてる当事者がウガンダやルワンダやブルンジだから。
隣国の裏庭が修羅の国と化して混乱していた方が利権を奪いやすい。
例えば、ルワンダとの国境に接した地域を勢力圏にするM23だが、中身は実質的にルワンダ軍というのは公然の秘密。
ゴリラを見に行ったのに、ゴリラじゃなくてゲリラがいた!なんて笑えない。
2023年10月、ウガンダの国立公園で越境してきたADFゲリラにハネムーン中の旅行者2人とウガンダ人ガイド1人が殺されている。