南アから日本に帰る【4】トリップ

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第3話に続く第4話。

ダルエスサラームを出てタンザニアを東西に1254km横断してキゴマに向かう。

53時間もかかったのは「とにかく遅せぇ!」の一言に尽きる。

終点キゴマには一体いつになったら着くのか?車掌を含めて誰も知らない状態で2回目の夜を迎えた時はストレスを感じたが、この移動でオレの心は折れていない。

なぜなら一等寝台だったし、今回は乗り遅れていないから出発から到着まで寝台の上でただボケーっとしていただけで、心が折れる要素が何もない。

肉体的苦痛さえなければ、もはや53時間くらいの移動ではダメージを食らわん。

そのため移動後も休養に入ることなく、キゴマには数日しか滞在していない。

タンガニーカ湖に面したキゴマで、誤ってタンザニア海軍の基地に迷い込んでしまったついでに「ブルンジまで海軍の船で乗せて行ってくれ」と頼んでみたが、「ブルンジは外国だから」とやんわり断られてしまった。

たしかに!!タンザニア軍の船でブルンジに乗り込んだら戦争になるな!

しかたがない、自力で行くか…

ブルンジ

キゴマからブルンジとの国境まではダラダラで行く。

ダラダラとは、ワゴンタイプのミニバスを指すタンザニアでの呼び名だ。分かりやすく言えば、ガーナでトロトロと呼ばれているのが、タンザニアのダラダラである。

これでもかっ!と荷物と大人17人と子供2人をギュウギュウに詰め込んだらようやく出発。

大人21人が乗っていた時もあったので、ギュウギュウ詰めは普通だ。

これが本当に国境へと続く道なのか?と思うようなダートロードを2時間ほど走ると、ようやく国境の村マニョヴに着く。

ど田舎もいいところで、タンザニア側の国境に行くとイミグレは留守であった。

周りの人に聞くと、入国審査官は「市場に買い物に行った」とのこと。

普通に勤務時間中である。

待つ必要あるかな?このまま密出国しても何の問題もなさそうだけど…とは思ったが、律儀なオレは係官が買い物から帰ってくるまで30分ほど待った。

牧歌的な景色が広がる国境地帯だが、地味にハードな国境越えが待っていた。

恐ろしいことに、タンザニア側のイミグレと、ブルンジ側のイミグレは20kmも離れている(国境にブルンジのイミグレがない)上に、国境を越える手段に徒歩以外の選択肢はない。

事前に知っていたら間違いなくこんな国境には来ていない。

ブルンジ領に入ってしばらく歩くと村があって、そこからようやくダラダラに乗ってイミグレがある町まで車移動できるのだが、その村までが遠い!!

歩くのなんかイヤじゃん、荷物は重いし。

そんな時はチャリに乗っているタンザニア人に「歩きたくないから後ろに乗せてくれ!頼む!」と、オレのようにチャリの後ろに乗せてもらって国境の長い坂道を颯爽と走り下りる手もあるぞ。

ただし、逆(ブルンジ→タンザニア)でこの手は使えない。とんでもない距離の上り坂をアフリカを呪いながら自力で歩くしかない。

ブルンジの首都ブジュンブラで、外務省の海外安全情報を見たら当時こんなことが書いてあった。

非常に危険ですので、ブジュンブラ市内から近郊県への陸路での移動は絶対に控えてください。武装解除が進んでいないために、生活の糧を失った旧兵士やそれを装った者が、各地で外国人を含む一般市民に対し、強盗、誘拐及び強姦等の銃器を使った凶悪犯罪を多数引き起こしています。
国連職員に対しては、国内を車で移動する際は2台以上の車列を組み、ブジュンブラ近郊県への渡航の際には軍の護衛を付けることが義務付けられています。

こ、こえーっ!!

でも…もうブジュンブラまで陸路での移動で来ちゃってる。なんなら、2台以上の車列は組んでいないがチャリに2ケツして国境を駆け下りて来ちゃってる。

どおりで国境からブジュンブラまでの道中は検問だらけだったのか。

犠牲者20万人とも30万人とも言われる12年続いたブルンジ内戦が終結してからまだ1年も経っていない時期だったので、停戦監視と武装解除のために国連PKO部隊が展開していて、ブジュンブラ市内を装甲車が走り回っていた。

ただ、内戦終結したとはいえ、まだ停戦に合意していない反政府勢力がいて武力闘争を続けていたような状況。

オレが行った時はまだ夜間外出禁止令が出ていたが、2カ月後に12年ぶりに解除された。

ちなみに最近のブルンジはどうなんだろ?と思って、2024年の最新海外安全情報を見てみた。

5月30日、午前11時30分ころ、ブジュンブラ市中心部の保険会社ビル内で手りゅう弾が投てきされる事件が発生しました。同社社員が上司に対して手りゅう弾を投げつけたとの情報で、上司はすぐ逃げたとのことですが、現時点1名が軽傷の模様です。本件は、会社内での内部紛争とされ、不特定多数の人に対するものではない模様です。
ブジュンブラ市内では本年5月5日、同月10日(同じ日に2回)と、今月だけで手りゅう弾の投てき事件が4回も発生しています。さらなる発生のおそれも考えられます。

あれかな?ブルンジのZ世代が「。で終わる文章は威圧的でマルハラだっ!」って上司に向かって手りゅう弾を投げつけた、とかそういう話か?

今にして思えば、オレが行った時からすでにブルンジとルワンダには大きく差が開いていた。

四国よりちょっと大きいくらいの国の大きさも…多数のフツと、少数のツチという民族構成も…ほぼ同じの双子のような隣同士の国なのに、今やすべての面でルワンダに大きな差を付けられているブルンジ。

ルワンダ大虐殺は広く知られているが、ブルンジでも同じように虐殺があったことは忘れ去られた。

今やICT立国として“アフリカの奇跡”とまで言われるルワンダに対して、ブルンジでは2024年になっても部下が上司に手りゅう弾を投げつけてくる。

ブジュンブラ滞在中、ツーリストオフィスでブルンジの見どころを聞いた。

「レンタカーを借りて3日くらいかけてブルンジを一周してきたら?」などと無責任におススメしてきたが、さすがにそんなリスキーなことはしていない。

そのリスクに見合うだけの見どころは何なの?と尋ねると、探検家リヴィングストンのモニュメントを教えてもらった。

See page for author, Public domain, via Wikimedia Commons

行かなくて良かった!と、心の底から思う。

モニュメントっていうか…ただの岩じゃん!!

ルワンダ

ブルンジから国境を越えてルワンダまで移動するバスに乗っている時からなんだか体調が悪かった。

熱っぽいし、めまいがする。

体調が悪くなったのはケープタウンを発って以来はじめてのことだった。

ルワンダのブタレという町で、病院に行ったりしたが、日に日に調子が悪くなっていく。

咳や鼻水も止まらなくなってきた。

あれは寝込んで4日目のことだった。

いかにも体調が悪そうに咳をしているオレを見かねたのか、泊まっていた宿のおばあちゃんが声をかけてきた。

一生懸命に話しかけてくれるのだが、おばあちゃんはキニヤルワンダしか話さずオレには何を言っているのか全く理解できない。

言葉が通じないことを悟ったおばあちゃんは、病気のオレの手を引いて外に連れ出した。

宿は未舗装道路沿いに建っていて、車が通る度に砂ぼこりが舞う。

そのため、敷地を囲う塀の足元に生えている雑草は砂ぼこりをかぶっていた。

おばあちゃんはその汚い雑草を指さして何やら言うと、突然むしり取って自らムシャムシャと食べ始めた。

そして言った。

「お前も食え」

キニヤルワンダを理解しないオレでも分かった。

えっ!?

と思って。

絶対やだ!だって…きったねーじゃん!!

と思って。

いつの間にかオレとおばあちゃんを取り囲む人だかりができており、事の成り行きを見届けんとしていた。なにかあるとすぐに人だかりができるのはアフリカあるある。

おばあちゃんのジェスチャーから察するに「この草は喉に良いから食え」と説明しているようだった。

いや…自然豊かな野に出て薬草然とした草を食えって言われたら、オレも食いますよ。

でも…これって塀の足元で埃まみれになってる雑草じゃん!!

現場の写真は残念ながらないが、ひとつイメージ画像を出そう。

ダルエスサラームに到着した時に「きったねー!」と思って撮った沿線の景色だ。

さすがにここまで汚くはないから過剰例ではあるが、少なからずゴミだってあるし、すぐ近くの飲み屋に来た客が帰りにこの塀で立ちションしてる可能性だって多いにある。

食べたくなんかないが、おばあちゃんと、取り囲む人たちの圧が強い。

足元の雑草を指さし、食べるジェスチャーをすると、おばあちゃんと群衆が大きくうなづく。

もはや食べないことが許される雰囲気ではなかった。

早くこの場から解放されたい…その一心で、嫌々食べた。

あんなに食べることがイヤだったのに…食べてビックリした。

なんの効果もない!

ただ、道端に生えている得体の知れない埃だらけの草を食っただけ。

苦くてマズくてお腹を壊しそうになっただけである。

民間療法で治らないなら、薬を飲んで治すしかない。

薬局に行き、白衣を着たスタッフに熱があること、倦怠感があること、咳や鼻水が止まらないことを伝えると、薬を処方してくれた。

ケニア製の、どぎついショッキングピンク色をした、日本では見ないサイズの大きな錠剤である。

言われた通り薬2錠を飲みベッドに横になる。

それほど時間はかからなかったように思うが、しばらくすると体がフワフワと浮いたような感じがしてきた。

目を閉じると、宇宙の中でグングンと自分が巨大化していったり、逆に小人化していったりと目まぐるしく変化する。

な、なんか酔いそうだ…

目を開けたら開けたで、部屋の天井がグニャ~と激しく歪んでゆき…

やがってブラックホールとなり、体が持って行かれそうになる。

や、やばい…吸い込まれる!!

と、ベッドにしがみついて必死の抵抗をしながら思った。

あれ?薬局で処方されたのって合法的なやつ?

完全にトリップ中なんですけどっ!!

自分でも引くくらい尋常じゃない量の汗をかいていた。

服を着たままシャワーを浴びたのかと思うほど全身ビッショビショ。

ベッドを手で押すと染み込んだ汗でグチョッとなるほど、異常な量の汗だった。

体内の水分をほとんど失ったんじゃないか?と心配になったくらいである。

これだけの量の汗をかいたら解熱作用があって体調も改善するかな?と思っていたオレはビックリした。

なんの効果もない!

熱も一切下がっていない!!

ただ無意味にブッ飛んだだけ。

体調不良でおクスリ飲んだらガンギマリとか、マジで意味不明。

処方された薬の梱包シートの裏を見ると、消え入りそうな薄い字で「用量:大人1錠」と書かれていた。

薬局で言われた通り2錠飲んだオレは宇宙に行った。

トー横キッズがオーバードーズだぁ?

アフリカの薬ならたったの2錠で宇宙に行けんぞ!

投げ銭Doneru

書いた人に投げ銭する

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