読んだ本3冊

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不定期読書記録

ロネン・バーグマン著『イスラエル諜報機関暗殺全史』

あとがきに「本書の分量が当初の原稿の半分になった」と書いてあるが、半分になったくせにやたらぶ厚い上下巻の2冊組。

中東の現代史をイスラエル側の裏視点で見るにはもってこいの良書。

文体は読みやすいのだが…頻出する聞き慣れない固有名詞が(読みやすさの上では)厄介。一番は人名かな…アラブ系はそもそも似たような名前が多いし、イスラエル人も同じページにシャロームとシャロンとシャルムが出てくるとややこしい。

本とは全然関係ないけど、ソマリランドの元大統領の名前はアフメッド・モハメッド・マフムードとオリジナリティ皆無のベタ過ぎるTheムスリムな名前で、全くの別人である現ソマリランド投資促進大臣の名前はモハメッド・アフメッド・マフムード。そんなややこしさ。

誰が誰であるか厳密に把握することを途中放棄して全体の流れで読むようにしたら、スラスラ読めた。

イスラエル的な思考の裏には宗教的な背景もあったんだね、へーっ…となった。

イスラエル人は、捕らわれ人を救済するというユダヤ教の教えを重視し、行方不明兵や戦争捕虜を帰国させることに著しく固執する

他には、去年2020年11月28日に首都テヘラン近郊でイランの核科学者が暗殺された事件があって「へーっ」と思っていたのだが、この本を読むとどうやら2007年からイランの核科学者を何人も(イラン国内で)暗殺しているようなので、去年の事件も“そのうちのひとつ”でしかなかった。他にも何人も殺られてるって知らんかった…

あと、本の中には当然のことながらPLO(パレスチナ解放機構)のアラファート議長もよく出てくる。昔、よく日本のテレビニュースでも見かけた人。

シャロンは、1970年代後半にルーマニアの情報機関が撮影したビデオテープをばらまくことさえ検討した。当時DIE(ソ連主導のルーマニアの情報機関)の長官を務めていたイオン・ミハイ・パチェパ将軍はアラファートについて、「ずる賢さ、冷血さ、醜悪さが一人のなかにこれほど集まった人間は見たことがない」とよく語っていた。そのため、アラファートがニコラエ・チャウシェスク大統領との会談後に滞在していた宿泊施設に、パチェパ将軍の部下が隠しカメラを設置していた。そのカメラの映像に、アラファートがボディーガードたちと同性愛の性行為にいそしんでいる姿が記録されていたという。シャロンは、このビデオテープをイスラエルの情報機関が入手しており、インターネットに匿名でばらまくことを検討していると側近たちに打ち明けた。

ボディーガード“たち”ってことは…複数プレイBLか?

1978年、当時最高クラスの東側陣営の人物としてパチェパ将軍はアメリカに亡命。パチェパが西側に流した情報によって大打撃を受けたルーマニア政府はパチェパの首に懸賞金をかけたが、これとは別でなぜかアラファートも100万ドルの懸賞金をかけている。

盗撮された恨みか?

そんなアラファートも2004年に死去。死因については色々な調査結果が出ているがはっきりしないし、この本にも答えは書いていない。

アラファートはなぜ死んだのか? 私がその答えを知っていたとしても、本書に書くことはできないし、答えを知っているということさえ明らかにできない。イスラエルの軍検閲局が私に対して、この問題に関する詮索を禁じているからだ。

深読みすると、著者は婉曲的な表現でイスラエルが暗殺したとほのめかしているような気がしなくもない。

満足度:★★★★★

イオン・ミハイ・パチェパ著『赤い王朝 チャウシェスク独裁政権の内幕』

1978年、ソ連圏からの亡命者としては最高ランクの大物としてアメリカに亡命したルーマニア対外情報局(DIE)のパチェパ将軍が書いた本。

アラファートのエロ動画を盗撮した件で名前が挙がっていた人だ。

モニターしていた係官がライブでベッドルームとつないでくれたが、いややかましいこと、鼓膜が破れそうだった。アラファートは虎なみに吠えるし、恋人(ボディーガード)はハイエナなみにキャンキャン鳴くし。

アラファートがセックス中は虎なみに吠える話はどうでもいいとして…独裁者チャウシェスクと妻エレナの側近中の側近の話はどれも興味深かった。

チャウシェスクよりエレナがうざい(笑)

ルーマニアが親玉であるソ連と距離を置く自主独立路線をとっていたのも、西側陣営に親西欧と思わせておいて産業スパイ活動をしやすくするためだったのかぁ…とか。

チトー治める旧ユーゴスラビアもそうだけど、ルーマニアが自国開発の戦車や飛行機にこだわっていたのは第三世界の輸出を企んでいたためだったのかぁ…とか。

自国開発するために西側陣営から技術を盗む!という考えのベースはこれ。

「プロレタリア独裁のためになるものはすべて倫理的である」というマルクスとレーニンの原則に基づけば、技術情報活動は一つの制度としていささかの遠慮もいらない。資本主義から刈り取れるものはすべて収穫すべきである。

中国や北朝鮮も同じ発想で「資本主義から盗めるだけ盗むことはプロレタリア独裁のために良いことである」って思ってそう。いや、思ってるでしょ。

満足度:★★★★☆

ダニエル・L・エヴェレット著『ピダハン 「言語本能」を超える文化と世界観』

言語人類学者によるアマゾンの奥地に住むピダハン族の話。

著者の職業から言語人類学的なピダハン語の特異さを論じる部分も多くあるが、それ以外のピダハン族の生活や文化の話だけでも十分に興味深い本。

音素(子音+母音)がわずか11しかない(ただし声調はある)とか、左右を表す言葉がないとか、数を表す言葉がないとか、花の名前がないとか…必要がないから言葉が存在しないのだが、そんな彼らの生きる世界を覗き見るという点では下手な紀行文より遥かに面白い。

(二歳くらいのよちよち歩きの)幼児は刃渡り二〇センチあまりの鋭い包丁をもてあそんでいて、振りまわすたびに刃先が子供の目や胸、腕など切ったり刺したりしたくないようなところを掠めていく。だがわたしたちの目が釘付けになったのはその後だった。幼児が包丁を落とすと、母親は-誰かとのおしゃべりに夢中で-会話を中断もせず後ろに手を伸ばすと、包丁を拾い上げて幼児に手渡したのだ。誰も幼い子どもに、包丁で怪我をしないようにと諭そうとはしていない。

二歳児が(よその知らない子でも)包丁を振り回していたら「危ないから」って取り上げるのって、至極自然なことだと思っていたが…オレが日本人だからか?

いや、タイ人だってそうするだろうし、欧米人だって、ケニア人だってするだろうな。

うーむ…と、読みながら「異文化中の異文化」というか「リアル世界観の違い」に触れられる。普通に「いや、世界観が違うから」と言う奴が可愛く思える世界観の違い。

そんな本。

満足度:★★★★★
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