TDFとOLAが軍事同盟

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初めての仲間

ティグレ防衛軍(TDF)がオロモ解放軍(OLA)と軍事同盟を結んだ。

OLAは、以前ブログでもちょっと触れたが(オロモ人の間では)カルト的人気を誇るジャル・メロ率いる武装勢力。

もともとオロモ解放戦線(OLF)系だが、エチオピア政府とOLFの和平合意に反発して武力闘争を続けている一派で、OLFシェネとかOLAと呼ばれている。

今年5月、エチオピア政府はティグレ民族解放戦線(TPLF)とオロモ解放軍(OLA)をテロ組織に指名することを満場一致で閣議決定している。

つまりエチオピア政府的にはテロ組織同士が軍事同盟を結んだことに。

実はエチオピア政府はTDFの存在自体を認めていない。

そのため公式発表にはTDFの名前は一切出てこず、全てTPLFとして処理されている。

そうすると、このニュースのように…

AFP通信『エチオピア反政府勢力、世界遺産の地域掌握 政府は「全防衛力投入」示唆

世界遺産ラリベラを掌握したのはTDF(現実)ではなくTPLF(建前)ということになる。

このせいでオレはずっと認識を間違えていたんだけど。

完全にオレのイメージになるが…「OLAなんて(旅行者は近づかない)南スーダンとの国境近くの辺鄙な田舎にいる武装勢力」程度の認識だったが、この混乱に乗じてむちゃくちゃ活動範囲を広げている。

やはりTDFとの戦闘でほぼ崩壊状態のエチオピア政府軍が、国内の他の抵抗勢力も抑え込めなくなった「力の空白」が負の連鎖になっているかと。

OLAの広報担当によると、現在OLAはオロミア州内で4つの軍事作戦を同時進行中。

  • グジ県ではエレモ・キルトゥ作戦
  • バレ県ではナディ・ガマダ作戦
  • シェワ地方ではタデッセ・ビル作戦
  • ウェレガ地方ではラガッセ・ウォギ作戦

最初の2つは、首都アジスアベバからケニアに陸路で向かう時に通るルート上か?と思ったが、政府軍との間で激戦になっている最前線はゴロ・ドラ、リベン、グミ・エルダロらしいからルートからはずれている。まぁ、戦況次第ではエチオピア・ケニア間のルートも危ういけど。

3つ目は首都アジスアベバのすぐ周り。

アムハラ州からすれば、北部戦線ではTDFに押し込まれているかと思ったら、背後の南部からはOLAが…と、挟み撃ちに。

TDFからすればOLAと軍事同盟を結んだことで敵の戦力を分散させられるし…OLAからすればTDFのおかげで勢力を拡大できるし…お互いの利害が一致したのだろう。

まぁ…あくまで共通の敵(アムハラ州とエチオピア政府軍)と戦うための“軍事同盟”であって、同床異夢だろうけど。

OLA以外にも…

アガウ解放戦線(ALF)は声明で「ティグレの痛みを我々も共有する」とか「ティグレ防衛軍とは永遠の兄弟」とTDFと共闘を宣言している。

このアガウ解放戦線はちょっと怪しいな…

こんな組織は聞いたこともないが、最近になって急に表に出てきた。

TDFがアムハラ州を撹乱するために州内の少数民族アガウをけしかけたか、けしかけるための工作活動として実体のない“アガウ解放戦線”なるものを登場させたのか…よく分からない。

4万の兵力を持っていると自称しているが、あまり信じていない。

ガンベラ解放戦線(GLF)なる組織も武力闘争を呼び掛けていて…声明ではTDF寄りの姿勢を匂わせている。

これも実体が怪しいけどな…メンバーはこの写真の3人だけとか。

もしかしたらオレが知らないだけで「ガンベラの地元じゃ超有名!」なのかもしれないが、何となく思うに…TDFとエチオピア政府との戦争で「力の空白」が生まれて、この機に乗じて現体制に不満を持っていた奴らが「今こそ!」とばかりに『ほにゃらら解放戦線』を名乗り出して解放戦線の竹の子状態になっている可能性も無きにしも非ず。

しかも現政府を倒しそうな勢いのあるTDF側に付いたら勝ち馬に乗れるかも!上手く行ったら新体制下で権力を持ちたい!的な魂胆があることは間違いないかと。

イメージ戦略

最新の情報によると、8月13日現在TDFは首都アジスアベバまであと172kmまで迫っているらしい。

うーむ…アジスアベバが陥落するのも時間の問題か?

そもそもTDFは停戦を拒絶しているわけではない。

ただし条件付きの停戦を求めている。

まず、再びティグレ州に侵略しないという絶対的保証。

さらに、ティグレ州に残るエリトリア軍とアムハラ州軍・民兵の完全撤退、すなわちティグレ州の領土を戦前の状態に回復させること。

ティグレ州内で行われた「恐ろしい戦争犯罪」を調査する国連主導の独立した調査機関を設置すること。

停戦協定が結ばれた場合、停戦監視は国際的な第三者機関が行うこと。

他には人道的なことで、援助物資の分配や、難民のティグレ州への安全な帰還を求めている。

これに対してアビィ首相は「TPLFはテロ組織であり、テロ組織とは一切交渉しない」と対話を拒絶。

公式には昨年11月に開戦してから3週間後にアビィ首相が『勝利宣言』をして、建前では“勝った”ことになっているので交渉する必要もない…ということなのだろう。

アビィ首相が対話を拒絶しているので、TDFは進撃を止めず首都アジスアベバに迫っている。

ティグレ側とエチオピア政府側がお互いに「こちらが善であちらが悪」という二項対立に持っていこうとしているのは共通しているが、ティグレの方が数段上手な印象。

これが30年にわたってエチオピアの政治と軍を牛耳ってきたTPLFの老獪さなのかは分からないが、少なくともアビィ首相よりは上手。

分かりやすいところで言えば、ティグレ側が提示している停戦のための条件は至極真っ当なもので、突拍子もないことを言ってるわけではない。一方で頑なに対話を拒否する“ノーベル平和賞”アビィ首相の対応には「?」となり、外部から見る印象は悪い。

他には…「仮に首都アジスアベバに攻め上がった暁にはどうするのか?」という問いに対して、TDFは「ティグレ州がエチオピアに留まるべきかを国民投票で問う」と、何だか“民主主義的な人たち”アピールが「世界を(特に欧米を)意識していて上手いな」と。

捕虜の取り扱いに関しても、国際赤十字を通して解放してたりするのをみると「(非国家主体にもかかわらず)国際法を遵守するちゃんとした我々」アピールが出来てる。

あと…敵に散々略奪や虐殺や組織的レイプをされ、民族抹殺を図られたが、体勢を整えて一転して反転攻勢に出たティグレ側。

やられたらやり返す、倍返しだ!!

となる危険性もあるなと心配していたが、ティグレ側のプロパガンダを見ている限りでは「あくまで統制が取れた軍&他民族の一般市民もリスペクトする正義のTDF」を演じている。

それはカウンター攻撃で攻め込んでいるアムハラ州内においても。

戦争犯罪的行為を全くしていないとは思わないが、もしやっていればエチオピア政府系メディアがこれみよがしに『敵の邪悪さ』をアピールするのに利用するだろうから…それが(今のところは)見られないということは、断言は出来ないが虐殺も組織的レイプもしていなさそうである。

それは決して彼らが「良い人たちだから」ではないだろうけど。

開戦直後の2020年11月9日、ティグレ州北西部のマイカドラという町で虐殺が起こった。

斧で頭を叩き割られたり、マチェーテ(牛刀)で手足を切り落とされたり、正確な人数は分からないが少なくとも700人。エチオピア人権委員会(EHRCO)の報告書では1100人が殺された。

ロイター通信:How ethnic killings exploded from an Ethiopian town

これは先にティグリニャ人が隣人のアムハラ人を虐殺。その後にアムハラ民兵とエチオピア軍がティグリニャ人を虐殺している。

別に清廉潔白な人たちなわけではなく、単純に「やられたことをやり返さない」ことが善と悪の二項対立でどれほど有利に働くかを知ってるのだと思う。

そもそも国際的には自分たちは『反政府勢力』のくくりにされてイメージ的には不利。

それに対して、一般市民に暴虐の限りを尽くしたエチオピア軍と、一般市民には手を出さないTDFというイメージが国際世論に与える影響を計算してると。

ティグレ側が発信するプロパガンダからオレは勝手にそんな意図を感じたが、今のところ「悪と戦う正義のTDF」を演じているのは成功しているように思う。

それだけ末端の兵まで統制が取れていて、それがTDFの強さなのかも。

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