前回に続く今回は、イエメン西部・北部の見所をご紹介。
モカ

紅海に面する港町モカ。
皆様ご存じモカコーヒーのモカね。
モカコーヒーって、正確にはモカ産のコーヒーってわけじゃなくて、元々はモカ港から輸出されていたイエメン産やエチオピア産のコーヒーのこと。
コーヒーの名前になるくらいだから、かつては栄えていたであろう港町だが、今は見る影もない。ただの寂れたど田舎の漁村で、わざわざ訪れる価値はない。
飲みだけじゃ飽きたらない変態的コーヒー好きか、アフリカから船をヒッチハイクしたら偶々モカ着だったというオレのような人しか行かないと思う。
ちなみに、殺人的な暑さ。
サナア

日帰りは含まず宿泊したことがある都市だけでも今まで300ヶ所くらいあるが、その中で『最も良かった町』の部類に入る。他だと…ロシアのサンクトペテルブルクとか、南アフリカのケープタウンとか。
少し大袈裟に言えば、旅好きだったらサナアは死ぬまでに一回は行っておきたい。
理由を挙げよう。
まず…涼しい。
気温はオレの中でけっこう大事なポイントなのだが、標高2300mの高原に位置するサナアはとても過ごしやすい。人間が行動するのに、ちょい寒いくらいがちょうどいいのだ。
次に…異国情緒が半端ない。
世界最古の都市のひとつで、オールドサナア(旧市街)には2500年前以上の建物も残る。歴史的な街並みを残しているところは他にも数多くあるだろうが、サナアの場合は町を歩いていたらすれ違う男たちが刀を差しちゃってるし…え?今、何時代だっけ?!と、まるで中世にタイムスリップしたかのような感覚になる。

オールドサナアの宿に泊まれば、完全にアラビアン・ナイト。

ただし、オールドサナアに泊まるとモスクがそこら中にあるので、日の出前の早朝5時台に「アッラーフ・アクバル!!」と大音量のアザーンが流れてきて、安眠を妨害されるぞ。
次に…観光地特有のウザさがない。
大体の観光地にはウザい客引きやら土産物屋が集まっている。
「オミヤゲ!」「ヤスイ!」などなど片言の日本語で話しかけられたりと色々あるが、そういうウザい人たちがいない。

かと言って、そっとしておいてくれるか?というと、そういうわけでもない。
歩いていると「お茶を飲んでいけ」と誘われるのはよくある。
ただ、イスタンブールのように睡眠薬入りお茶をご馳走になるという危険性もなく、ただ単純にお茶に誘われる、それだけ。
子供も近寄ってきて絡んでくるが、アフリカのようなウザさは一切ない。

「スーラ!スーラ!(写真)」とおねだりしてくるが、撮った後に金を請求してこない。ただ純粋に写真を撮ってもらいたいだけの子たちなので、かわいげがある。

ポラロイドカメラが大活躍しそうだなとは思ったが、デジカメのディスプレイに映った自分の写真だけでも十分に大喜びしておった。

内戦に介入したアラブ連合(サウジアラビア軍)がサナアを空爆して、オールドサナアにも爆弾を落としたらしい。一部が破壊されるなどして『危機にさらされている世界遺産』になってしまった。
許すまじ!と、オレは独自に経済制裁することにした。
今後、サウジアラビア産の石油は絶対に…飲みません!!
双子都市
ここからは首都サナアより北方の町。
まずは、崖の上と下にわざわざ分かれて住む双子都市シバームとコーカバン。

断崖絶壁の上にあるのが、標高2600mにあるコーカバン。
軍事を担当していて、有事の際に外敵が攻めてきたら戦う町。

コーカバンから見下ろすとあるのが、片割れのシバームで標高2300m。
農業と商業を担当していて、平時の経済活動はシバームが中心になる。

なぜなら…攻めにくい=行きにくいわけで、平時のコーカバンはむちゃくちゃ不便。
スーラ
こちらも崖の上に建てられた要塞都市スーラ。

小さな町だが、あのオスマン帝国ですら落とせなかった堅固な防御力を誇る。
城壁に囲まれた町の中には天然要塞の岩山(写真左に映ってるやつ)があって、危なくなったら岩山に立てこもれるようになっている。
シャハラ

北部は、険峻な山岳地帯の地形を利用して要塞化しているところが多い。

高低差1400mの崖を利用して鉄壁の防御力を誇るのがシャハラだ。

この崖を登らないとシャハラを落とせない。
オスマン帝国の大軍ですらこの小さなシャハラを陥落させることが出来ず、崖下の谷は『オスマンの墓場』と呼ばれている。
シャハラから周囲を見渡すとこんな感じ。

崖の斜面に畑を作っているのが見える。

17世紀頃に造られたという『天空の橋』は、深さ300mの谷底までいちいち降りなくても隣村へ行けるようにと続く連絡橋。
逆側にもすぐ隣の村が見えているのだが、間にはとんでもない高さの崖があって、しかも…どう考えてもロッククライマー以外には登れそうもない崖で…
どうやったら隣村に行けるのか分からん!!

直線距離だったら数分のところに見えているのに、行き方不明。
シャハラから周囲の山々を見渡すと、他の村や畑が見える。

あっちの山頂には別の村が…

こっちにも山頂に要塞化された町が見える。

北部はほぼこんな感じで、ゴツゴツとした険峻な岩山の頂きにそれぞれの村が要塞化されていて、古の時代から独立を守ってきた誇りからか未だに武装していて(内戦前ですら)イエメン政府の言いなりにならないという…クセが強い地域。
内戦にアラブ連合軍が介入しているけど、空爆だけじゃなく地上戦まではじめたら、待っているのは底なしの泥沼だろうな。アフガニスタンの山岳地帯と同じ状況になるかと。
ちなみに、内戦で最大勢力になっているフーシ派は、オレが行ったところよりもっと北(サウジアラビアとの国境近く)の辺境から都に向かって南下をしてきて、今は首都サナアを掌握。
まぁ、イエメン北部の山岳地帯の男たちは未だにサムライみたいな思考をしてるんだろうな。「帯刀してカラシニコフを持ってこそ真の男だぜ!」的な人たちだから、戦うことに関しては何とも思ってないというか…当然のこととして戦ってるんだと思う。
いい人たちなんだけどね…
戦いになったら一番面倒くさい人たちだと思う。戦国時代にタイムスリップして、戦っているサムライたちに「ラブ&ピース!」と平和を訴えても日本刀で一刀両断にされるだけだと思うが、そういう感じ。
次回は最後、南部と中東部の見所をご紹介。