1998-2000【13】セミナー

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第12話に続く第13話。

ミンダナオ島

ルソン島に次いでフィリピンで2番目に大きな島、ミンダナオ島。

マレーシアからスールー諸島沿いに北上して、ミンダナオ島の西にグニョンと突き出たザンボアンガ半島の先端にある都市ザンボアンガに上陸した。

By Eugene Alvin Villar (seav), CC BY-SA 4.0, CC BY-SA 3.0, or GFDL, from Wikimedia Commons(線&トリミング改変)

ザンボアンガからはどう動くか?フィリピン人に聞きまくって情報収集する。

市民
ゲリラが出るからバスは止めた方がいい
オレ
えっ…

どうやらミンダナオ島は、モロ民族解放戦線、モロ・イスラーム戦線、アブ・サヤフなど反政府武装ゲリラたちに大人気の島らしく、市外に出れば危険というザンボアンガは陸の孤島状態であった。

当時、市内に関しては安全と聞いていたが…

2013年9月にモロ民族解放戦線の戦闘員500人が沿岸部からザンボアンガ市内に侵入。激しい市街戦が展開され、住宅1万戸が破壊、住民の1割に当たる10万人が避難する事態になった。

LOOKBACK: The 2013 Zamboanga siege

死者200人以上を出したこの衝突、市内のリオ・ホンド地区、サンタ・バルバラ地区、サンタ・カタリーナ地区辺りが主な戦場になったみたいだけど、かつてオレが泊まったホテルからわずか徒歩10分くらいのとこで…めっちゃ近いんですけどっ!!

帝国ホテル

そんな戦場まで徒歩10分でアクセスできちゃうほど好立地に位置するホテルは、皆さまご存じのImperial Hotel(帝国ホテル)!!

あの由緒正しき高級ホテルの系列なのかな? もうエントランスから高級感溢れる佇まいで、思わず入るのを躊躇しそうになること必至。

右側の入り口を入り階段を上っていくと豪華絢爛なレセプションがある。

部屋に至っては贅を尽した内装になっており、泊まった誰もが「ここは監獄ですか?」と思わずにはいられないほど。そして格子からわずかに部屋に入り込む陽の光がさらに監獄ムードを盛り上げてくれる。

さらには、さすが高級ホテルらしく宿泊客に対するサプライズ演出にも余念がない。南国らしくスコールに見舞われる夜は、よりにもよってベッドの真上から雨漏りするというサプライズ演出で、室内なのにカッパを着て寝るという楽しさ満点の夜を過ごせるぞ!

残念ながら部屋には窓らしい窓はないが、廊下の窓から見える景色は圧巻のトライシクル・ビュー!!

トライシクル(バイクタクシー)のけたたましい2ストロークエンジン音がお客様の安眠をお約束してくれる。

今は知らないが、フィリピンは観光地ではない場所の安宿事情がものすごく悪かった。観光地以外で他の旅行者に出会うことがなかったので、そもそも需要がないのかも知れない。そうなると必然的に安宿=連れ込み宿(ラブホ)になるのだ。

ザンボアンガの帝国ホテルもそう。歯ブラシとかシャンプーとかホテルらしいアメニティグッズは何もないくせして、コンドームだけは完備みたいな… トライシクルのエンジン音に加えて、お隣さんから聞こえてくるベッドがきしむ音を子守歌に眠る羽目になる。

これで1泊190ペソ(当時610円)。連れ込み宿のため、シングルという概念がない料金設定なのが(周辺国と比較して)割高だった原因かも。個人的にはフィリピンの安宿は東南アジアで一番費用対効果が低いと思っていた。

スーパーフェリー

陸路移動はゲリラに誘拐されるかも?ということで、チキンなオレは海路でザンボアンガを脱出することにした。

同じミンダナオ島の東にあるフィリピン第3の都市ダバオまでは『スーパーフェリー1号』で22時間。

ちなみに、WG&A社の運行するこの『スーパーフェリー』シリーズ…

オレが乗った1号の末路は知らないけど、3号は火災で廃船、6号も火災で廃船、7号も火災で廃船、9号は乗客968名を乗せて沈没(死者10名)、14号は爆弾テロで爆発(死者116名)と、色んな意味でスーパーなフェリー。

船上でキャンプファイヤーでもやってるのか?

火災も起きず、沈没もせず、爆発もせずダバオに到着できたオレは、今度はバスでミンダナオ島を陸路縦断して11時間かけて最北端の町スリガオに行った。

レイテ島

ミンダナオ島スリガオからは、北隣のパナオン島リロアンまで船で移動。

船内が人で埋まっていたため、甲板で1人海を眺めていた。野生のイルカの群れがフェリーと並走して泳いでいて偶にジャンプしたりする姿を見て癒されていると、なぜかフィリピン人の若者たちが肩を組んで輪になってオレを囲んで讃美歌を歌い出すという意味不明の状況に…

オレ
ひぃーっ…な、なに?

なぜオレを輪になって囲む必要があるのか? なぜいきなりオレだけに向かって讃美歌を歌うのか? せめて事前に説明してからやって欲しい。

急にそれをされるとめちゃくちゃビビるからっ!!

歌い終わった彼らに恐る恐る聞いてみると、彼らは大学生7人組の統一教会の信者たちでミンダナオ島で布教活動をしてきた帰りだと言う。

襲撃?!

船がパナオン島リロアンに到着すると、港にレイテ島タクロバン行きのバスが待っていたためそのまま乗り込む。パナオン島とレイテ島は100mくらいしか離れておらず、橋で結ばれているのでバスで行けるのだ。

走り始めて2時間ほど経った23時15分頃、突然ガラスの割れる大きな音がしてバスが急停車する。後部座席に座っていたボクにもガラスが降りかかってきたので見ると、バスの中ほど左側のガラスが割れている。周りの人に聞いてみると、こぶしよりちょっと大きいくらいの石が投げ込まれたらしい。石が当たったおじさんは腕から血を流していた。運転手ほか男の人数人が降りてピストルを発砲。隣の席のおじさんも窓からピストルを撃っていたが、石を投げた人は見つからなかった。

ゲリラの襲撃かっ!?とビビったが、実際には石を投げられただけであった。

ただ「え…皆さん普通に銃を持ってバスに乗ってるんですか?」と別の驚きはあったけど。隣に座ってたおっさんなんて、冴えないただの禿げたおっさんだと思っていたが、窓からパンパン発砲しててちょっと引いちゃった。

聞いたところによると、フィリピン人は走っているものに向かって何となく石を投げたくなるようで、列車とかバスとか窓側の席は危ないと言われた。

なんなの?その謎の習性?

ホームステイ

深夜12時半にタクロバンに到着。

こんな時間に初めての町に着いても…どうしようか?と思っていると、同じバスに乗っていた統一教会の信者たちが声をかけてきた。

信者
泊まる場所が決まってないなら、うちの施設においでよ
オレ
あら、そう?

じゃあ、遠慮なく…と、ホイホイとついて行ったオレ。

数日間信者たちと寝食を共にしたことが、オレのタクロバンの全てである。

施設は、礼拝するための少し広めの部屋の他に、宿泊用の部屋が2つと台所・トイレ・シャワーがあった。

オレ
男女の若者8人が同じ屋根の下…『男女が統一合体する儀式』的なこととかあったらどうしよう?グフフ

オレの不純な心配は杞憂に終わり、きっちり男女で別れて泊まる。

彼らの生活は早朝5時からのお祈りで始まるので、全然寝ていられない… なんか、ひれ伏して「ははーっ!」みたいなお祈りの仕方をしていてムスリムのお祈りみたいだなと思っていたら、何でも韓国の祈り方らしい。

施設の壁には教祖の写真の他に、合同結婚式の写真も貼られていた。

今度、日本人と結婚するという女の子のIDらしきものを見せてもらったが、写真の裏に名前と住所、年齢19才と入信歴3年という情報の他にバーコードが貼られていた。それを見ながら「バーコードの数字で結婚相手をビンゴみたいにして決めてるのだろうか?」と勝手に想像してしまった。

彼らに、太平洋戦争で連合軍が上陸したというレッドビーチに連れて行ってもらった。

ここにはフィリピン反攻のためにこの地に上陸したマッカーサーらの銅像が建っている。戦艦武蔵が沈没したレイテ沖海戦もそうだが、レイテ島自体も激戦地になっていたようで、この島だけで8万人の日本兵が死んだらしい。

観光が終わると、セミナーなるものに参加させられた。

タダで泊めさせてもらって食わせてもらっている身で無下にも出来ない。セミナー中、ちょこんと大人しく座っているオレのマジメさが高く評価され、こんなお誘いまで受けるようになった。

信者
君は是非さらにハイクラスのセミナーに参加すべきだよ
オレ
ひぃーっ!!取り込まれてゆく…

あと、知らないうちに皆から「ブラザー」と呼ばれているのが気になる。

そして…

オレは面倒くさくなって…

逃げた。

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