かなり久しぶりに映画について。
映画の舞台はイランにある聖地マシュハドである。
写真は、年間2000万人が巡礼に訪れるというイマーム・レザー廟。
シーア派十二イマーム派の第8代イマーム(指導者)であるレザーの殉教の地であるマシュハド、十二イマーム派にとってはまさに聖なる地だ。
巡礼者以外に誰がマシュハドに行くんだよ!?と思うかも知れないが、交通の要衝でイランからトルクメニスタンやアフガニスタンと行き来する時は通ることが多い。
誰がトルクメニスタンやアフガニスタンに陸路で行くんだよ!?と思うかも知れないが、それはその通り。
映画は、そんな聖地マシュハドで起こった実話が元になっている。
2000年から犯人が逮捕されるまでの1年間、マシュハドで16人の女性が絞殺され遺棄された。
「スパイダー・キラー」と呼ばれイラン社会を震撼させた連続殺人鬼。
逮捕されたのはサイード(当時39才)という、妻と3人の子供をもつ建設作業員の男だった。
サイードが狙ったのは売春婦や麻薬中毒の女性たち。
サイードは逮捕後に「自分は聖地マシュハドに蔓延る道徳的腐敗を浄化しただけであり、神もお認めになった」と主張。
一部の宗教的保守層からはサイードの行動を称賛する声があったのも事実で、「彼は正しいことした。もっと続けるべきだった」という声もあったようだ。
2002年4月8日、マシュハド刑務所にてサイードに絞首刑が執行された。
映画は、基本的にこの実話をベースにして、事件を追う架空の女性ジャーナリストを描いている。
何の情報もなく映画を見始めると、ミステリーっぽい入り方をするがミステリーではない。
観客が犯人捜しをするまでもなく、けっこうすぐ犯人は登場するし、犯人はサイードだから(映画内でもサイードとして出てる)。
女性ジャーナリストのラヒミ視点でのサスペンス要素が強い映画かな。
ラヒミ役のザーラ・アミール・エブラヒミは本作でカンヌ映画祭主演女優賞を獲っている。
あえて男性ジャーナリストではなく、女性ジャーナリストにしたのも、女性を取り巻く環境を描きたかった監督の意図があるようだ。
連続殺人事件の背後には警察か?宗教指導者か?と、陰謀を匂わせる演出が必要な要素かどうかは意見が分かれそうなところではあるが…
個人的には、映画の一番最後のオチを考えると意外と効果的でアリとも思う。
映画のホントに一番最後に「おぉーっ、そう来たか!!」と唸らされた。
全編を通じて飽きが来ない展開で話が進んで行くのも良いが、個人的には最後の最後に一番この映画の面白さを感じたかな。
ネタバレになるから書かないが、17人ー16人=1人って…そういうこと?!という。
冷静に考えると時系列的に色々と矛盾は生じちゃうんだけど、アイデアとしては非常に面白い。
聖地マシュハドかぁ~、懐かしいな…と思う人は是非どうぞ。
“正義”のために“悪”に鉄槌を下す私刑を必要悪として正当化する人は、イスラーム圏だろうが日本だろうが、リアルだろうがネットだろうが、いる。