前回YとJの話を書いた時に、すっかり忘れていたあいつへのイラつきを思い出してしまった。
あいつとは、Yに相当するタイ文字の子音ヨープーイン(ญ)である。
なぜイラつくのか?を説明するために簡単にタイ文字の仕組みを説明すると…
例えば ก(K)という子音文字に母音記号をくっつけていく。
分かりやすい長母音記号で、カー、キー、クー、ケー、コーと書く。
กา(Kaa)右→
กี(Kii)上↑
กู(Kuu)下↓
เก(Kee)左←
โก(Koo)左←
子音文字の上下左右どこに母音記号がついているか?でフワッと読めちゃう。
いちいち記号の形を見るんじゃなくて、上に変なのくっついてるから母音はイー(ii)、下に変なのくっついてるから母音はウー(uu)みたいな。
左はエー(ee)とオー(oo)があるけど、上がクニャっとしてたらオー(oo)だ!くらいのフワッとさ。
で、問題のあいつ!
子音文字 ญ(Y)
子音文字の段階で下に変なもんくっつけてんじゃねーよ!
子音のおまえにはまだ早い!!
下に何かくっついてるから…母音ウー(uu)と勘違いしちゃう。
でも違うの。ただの子音文字。
じゃあ、こいつにウー(uu)の母音記号をくっつけたらどうなるか?というと…
ญ(Yの子音だけ)→ ญู(Y+母音uu)
いや、わからんって!!
しかも、子音文字の時点でくっついてる変なやつ…ウー(uu)の母音記号をくっつける時に消えて代わりにウー(uu)の母音記号がつく。
だったら最初から要らなくね?!
山田優(ゆう)とかタイ文字表記する時に困りそうだが…
そこは大丈夫!! 別の子音文字 ย(Y)がある。
ย(Yの子音だけ)→ ยู(Y+母音uu)
見た目がすっきりしているから、下に変なもんがくっついていたらそれはもう母音uuがくっついたYuuで読みやすいっ!
ちなみに子音文字 ญ(Y)も子音文字 ย(Y)も発音は同じ。
日本 ญี่ปุ่น(Yiipun) を ยี่ปุ่น(Yiipun) と書いても音としては全く同じだが言葉としては意味を成さない。
なぜ2つもYがあるんだ?と思うかもしれないが、2つなだけまだマシである。
Sは4つ、THは6つある。
なんで?と質問されたら、オレならなんでだろ?と返す。
さて、子音文字の上下左右どこに母音記号がついているか?でフワッと読めちゃうなら、同じブラーフミー系文字を使う南アジア&東南アジア諸語の母音も当てられちゃうんじゃないか?と考えた。
これはモテるかもしれん。
例えば、東南アジアは内陸国ラオスに行ってこんなラーオ文字を見たとする。
ຍີ່ປຸ່ນ
はいはい、最初の文字は上に何かくっついてるからイ(i)系母音、次の文字は下に何かくっついてるからウ(u)系母音っぽいぞ…どうだ!?
と、特技ボイパを披露できる。
知らない文字の母音だけ予想してみせる母音パフォーマンス、略してボイパ。
けっこう人気があってボイパの世界大会があるとは聞いてる。
この特技にオレなりのアドバイスをひとつ付け加えるとしたら…
だから何なの?
母音だけ予想して何の意味があるの?
などと言ってくるような奴とは縁を切ること。
そんなもん何も言い返せないに決まってるので「えー!母音だけ予想できるなんてすご~ぃ!」と言ってくれるちょっと変な子にだけ披露するようにしよう。
さて、正解はຍີ່(Nii)ປຸ່(pu)ນ(n)、ニープンでラーオ語で『日本』。
タイ語の ญี่ปุ่น(Yiipun)と比較すると非常に似ていて、見事に母音を的中してやった。
この調子でカンボジアのクメール語もやっつけてやる。
ជប៉ុន
む?母音記号が少ないな…
真ん中の文字だけに上と下に変なのくっついてるが、上はなんか母音記号ぽくないな。
声調記号かもしれん。
これは…下が母音記号でウ(u)系の母音っ!!
正解はជ(cha)ប៉ុ(po)ន(n)、チャポンでクメール語で『日本』。
下にくっついてるのにウ(u)じゃなくオ(o)母音?!
納得できん!ボイパー(母音パフォーマー)の血が騒いでしまい、軽くクメール文字の仕組みを調べちゃった。
なんか…クメール語の子音文字にはデフォルトでア(a)かオ(o)のどちらかの母音がついてるらしい。
ជ(ch/a)の子音は、子音文字だけでチャ。
ប៉(p/a)の子音は、子音文字だけだとパ。
そんなប៉(p/a)の下に、ウ(u)の母音記号をくっつけて…ប៉ុこうしてやると、なぜか発音はポ(p/o)になるらしい。
なんじゃ、それっ!?
とは思うが、オレのウ(u)系の母音記号という予想は合っていた!!
ただ謎のクメール・ルールのせいで音としては不正解。
もしデフォルトでオ(o)の母音がついてる子音だったら、記号通りウ(u)発音になっていたみたいだけど。
あれ?ラーオ語でオレは母音を予想できる!と自信を深めてしまったが、クメール語で急に自信がなくなってきた。
次はミャンマー文字だ!
ဂျပန်
え?
最後だけ上になんかくっついてるけど…最初の二文字はどれが子音でどれが母音かわからん。
最後はイ(i)系の母音かしら?
正解はဂျ(ja)ပ(pa)န်(n)、ジャパンでミャンマー語で『日本』。
なるほど…子音にデフォルトで母音がくっついてるパターンね。
どうやら最後の子音の上にくっついてるのは末子音記号。たぶん…これがついてないとジャパ“ナ”になっちゃうんじゃないかな?デフォルトで母音がついてるなら。
ナ(n/a)じゃなくてン(n)にするために末子音記号をつけてるくさい。
いかん、全然母音が当てられない。
最後はスリランカのシンハラ語で自信を取り戻す!
ජපානය
はい、もう全然わかんない!!
そもそも子音がわからなければ、どれが母音記号かもわからん!!
上についてる耳みたいのは文字の一部なのか?記号なのか?
あえて言うなら…ජපානයの2番目だけ右に母音記号っぽいのがついてる。
オレのセオリーでいけばア(a)系母音!!
正解はජ(ja)පා(paa)න(na)ය(ya)、ジャパーナヤでシンハラ語で『日本』。
うむ、デフォルトで子音にア(a)の母音がついてるパターンね。
だからあえて母音記号をつける必要がないと。
パーだけ長母音にするために ප(p)の右にアー(aa)の長母音記号をつけてると。
おわかりだろうか?
知らない文字の母音だけ予想してみせる母音パフォーマンス、略してボイパ。
まったく意味がない!!
ボイパーを名乗っておきながら、著しく正解率が低い。
いや、99%意味がないけど1%だけあるかも…
子音文字のまわりに母音記号をくっつけて表音するタイプの文字の仕組みがなんとなくわかっていれば、応用で近しいタイプの文字も理解しやすくなる。
ハングルも仕組みとしては“似てる”から解読しやすい。
写真の解像度の問題で文字が潰れてしまっていて翻訳カメラで画像認識できなかった北朝鮮の政治スローガンを、ハングルが一切読めないオレでも解読できた。
メリットとしては、もしK-POPの歌詞に「偉大な~」とか「将軍様」とか「元帥様」とか書いてあったら読めちゃう。
それ以外のメリットは特にない。
最後に…根本的なことを言うと、上だからイ(i)系の母音だろ!とかで覚えちゃうと必然的に限界がくるので本当はやめたほうがいい。
タイ語の場合は母音が32ある。
昔ながらの素朴な支那そば風の母音記号ならいいが、二郎系母音記号が来たら破滅する。
母音記号マシマシで~!
ก(Kの子音だけ)→ เกือะ(K+母音ɯaʔ)
左右と上の三方に母音記号がくっついて、麺(子音)が隠れて見えないっ!
マシマシのくせに発音は「クァっ」と意外とさっぱり味。