9月17日、バイデン米大統領は、米国政府がエチオピア・ティグレ州での人権侵害の責任者に対して制裁を課すことを許可する大統領令に署名。
深刻な人権侵害を行ったり人道援助へのアクセスを妨害したりする個人や団体に、ビザの発給を拒否したり米国内の資産を凍結することを可能にする命令だ。
“人道援助へのアクセスを妨害”しても制裁するってとこがミソ。
大統領令は、以下のホワイトハウスのリンクから読める。
ちなみに、『エチオピアに対する制裁』という言い方は少し語弊があって、制裁対象になるのは戦争の当事者であるエチオピア政府、エリトリア政府、TPLF、アムハラ州政府、アムハラ州軍および非正規軍(FANOなどのアムハラ民兵を指していると思われる)の全て。
まぁ…実際に制裁が発動された時に影響が大きそうという点では実質的に『エチオピアに対する制裁』なんだろうけど。
それは、アメリカの制裁に対しての当事者たちの反応からも分かる。
9月18日付のティグレ州政府の公開書簡。
大統領令に対して「感謝の意を表明」している。
自分たちも当事者で制裁対象に成り得るはずなのだが、「エチオピア、エリトリア、アムハラ州の軍がティグレ州内において国際人道法違反」をしているからアメリカの今回のアクションは地域の危機解決になるというスタンス。
一方、こちらはエチオピア政府アビィ首相の公開書簡。
大統領令に対する返答の割には、なんとなく論点をずらして2ページも書いてる印象。
極悪非道の「テロ組織」TPLFとの「テロとの戦い」なのに、西側諸国は「発展途上のアフリカの国に対する不当な圧力」をしてきてダブルスタンダードだ!的なことを書いてある。
中国によるウイグル問題もそうだけど、なんでも「テロとの戦い」にすれば許されるという考えが流行ってるな。
もしかしたらアビィ首相の公開書簡は、バイデン大統領への返答の体裁をとったエチオピア国内向けのアピールかもしれん。
彼のやり口を観察していると、あえてエチオピアの『敵』の存在を強調することで一致団結を図りがち。民族という枠を超越して国家としてのエチオピアが団結するには、全民族共通の敵が存在することが一番手っ取り早い…いわば愛国ドーピングみたいなもん。
アビィ首相がTPLFを「エチオピアの癌」とか「根絶すべきエチオピアの雑草」とか「悪魔」とか呼んでいることからも分かるが、『全エチオピアの共通の敵であるテロ組織TPLF』という位置づけは国内向けアピールとしては都合が良い。多少、民族浄化チックなことをやっても「テロ組織根絶」という名の下にやれば正当化されるんじゃね?的な。
あとは、エチオピアをいじめるアメリカという構図も“アフリカいじめ”だと。
外圧と捉えることで内なる結束を狙ってるパターン。
「エチオピアに対する不当な圧力」じゃなく、わざわざ「アフリカの国に対する不当な圧力」としているのもわざとだろう。“アフリカだから”という論点ずらし。
なお、中国はエチオピアに制裁を課すアメリカの姿勢を批判。
「エチオピア政府には外国の干渉なしに自国の問題を解決する能力を持っている」と述べたそうだが…
「じゃーさ、じゃーさ、エリトリア軍は? アメリカの干渉どうこう以前に、エリトリアも外国なのに干渉してんじゃん!」って言い返した記者とかいないんかな?