ゴッドファーザーズ

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前回チューウィットについて書いたから、せっかくだからタイの他の大物も書いておくか…

サソムサップ家

ナコンパトム県といえばサソムサップ家。

2015年、ナコンパトム県では銃による犯罪が多発した。そのほとんどに“ナコンパトムのゴッドファーザー”ことチャイヤー・サソムサップの関係者がかかわっているという情報を得て、警察は『パトム・チェディ作戦』を展開。

直接の容疑は同年に公安警察官が射殺された事件で、アカラウット警察大佐が率いる犯罪制圧課(CSD)の精鋭隊員20人がチャイヤーの自宅を家宅捜索した。

地方警察であるナコンパトム県警じゃなくて、中央の警察庁から…しかも犯罪制圧課(CSD)が出てきたのは相手が超大物だから。

16,000平米の家からは銃8丁、銃弾800発、防弾チョッキなどが見付かったが、チャイヤーは事件への関与を否定。

結果的に、証拠不十分でチャイヤーが逮捕・起訴されることはなかった。

これがナコンパトムで絶大な影響力を持つサソムサップ4兄弟の経歴だ。

長男パダームチャイ:チュアン政権下で運輸副大臣、インラック政権下で労働大臣

次男チャイヨット:チュアン政権下で首相府付大臣、タクシン政権下で財務副大臣

三男チャイヤー:チュアン政権下で運輸副大臣、サマック政権下で保健大臣、財務大臣

四男アヌチャ:下院議員、現タイ国民発展党副党首

閣僚経験者もいる大物政治家ファミリーで、バンコクで出たごみを地元ナコンパトムで埋め立てるごみ処理事業で財を成した、というのは表の顔。

裏では麻薬の取引、マネーロンダリングなどに手を染めている(とされる)。

2001年9月、四男のアヌチャが麻薬取引にかかわっていると睨んだ麻薬取締局と第7管区地方警察は700人以上の武装警官とヘリコプターを動員して『インタノン44作戦』をナコンパトム県全域で展開。サソムサップ家に取り込まれているナコンパトム県警は仲間はずれ。

多数の下っ端は逮捕できたが四男アヌチャまでは手が届かず、逆にサソムサップ家の反撃に遭って第7管区地方警察司令官ティーラウィット警察少将は左遷。

結局、当時のタクシン首相がサソムサップ家と警察の仲裁に入り手打ちになる。

この後で、四男アヌチャは下院議員になっている。

ちなみに、三男チャイヤーの孫レームは一族の威光を借りてやりたい放題らしく、強姦・暴行・殺人の容疑があるものの被害者はサソムサップ家を恐れて被害届を出さないそうだ。

クンプルーム家

チョンブリ県といえばクンプルーム家。

“タイ東部のゴッドファーザー”と呼ばれた通称カムナンポことソムチャイ・クンプルームと、その息子たち。「チョンブリのマフィアはやばい」とよく聞くが、その頂点に君臨する一族。

カムナンポは、小学校を中退してバスの車掌になってから色々な職業を経て、ベトナム戦争やカンボジア内戦で戦略物資の密輸で儲けて、酒販売、建設、不動産に手を広げる。

1980年代にタイ中央政府がチョンブリ県を含む東部を工業地帯として発展させようとした波に乗って、経済的・政治的影響力を増してゆく。

政治家としてはセーンスック市長をやったくらいでパッとしないが、彼が支援する立候補者はチョンブリ県のほとんどの選挙区で勝利。政党や立候補者を支援することで一時は国会の20議席をコントロールしていたフィクサーで、タイ政治に最も影響力のある1人とされていた。

息子4人の経歴を見れば、クンプルーム家のチョンブリでの影響力が分かる。

長男ソンタヤー:タクシン政権下で観光スポーツ大臣、科学技術大臣、インラック政権下で文化大臣、現パタヤ市長。ちなみに、妻のスクモン・クンプルームも元文化大臣

次男ウィタヤー:元下院議員で現チョンブリ県自治体長

三男イティポン:前パタヤ市長

四男ナロンチャイ:現セーンスック市長

さて、カムナンポだが…殺し屋を雇ってライバルの政治家を射殺したとして禁固25年の実刑判決を言い渡されるも、1000万バーツ(約3300万円)を払って保釈。

その後も別の汚職事件で裁判になるが出廷せず、欠席裁判のまま禁固5年の実刑判決。

そのまま7年間の逃亡生活に入った。

と言っても…たぶん皆さんが想像する『逃亡』とは違うけどね。おうちに雲隠れしたってだけで、ただチョンブリ県警は逮捕をする気がなかっただけかと。

そこで中央の警察庁が動いた(7年後だけど)。

中央捜査局が犯罪制圧課(CSD)特別捜査チームを組み、2カ月にわたって内偵捜査を進め、2013年1月30日にバンコクの病院で診察を受けてチョンブリに帰る途中のカムナンポを高速道路で逮捕。

この逮捕劇を裏で指揮していたのが中央捜査局局長ポンパット警察中将である。

彼は正義の味方だっ!と思った人、負け。

ゴッドファーザーを逮捕した翌年に、今度は自分が逮捕された。

違法カジノを経営し、石油密輸業者から多額の賄賂を受け取り、昇進したい警官に警察ポストを販売し、誘拐・監禁・恐喝を請け負っていた容疑で家宅(11軒!)を捜索したところ、現金・貴金属・象牙・骨董品など20億バーツ(約69億円)相当の隠し財産を発見。

ちなみに…ポンパット警察中将と同じ容疑で逮捕されたのはNo.2である副局長のコーウィット警察少将。そして同容疑で取り調べを受けていたのが犯罪制圧課のアカラウット警察大佐。

アカラウット警察大佐?

そう、“ナコンパトムのゴッドファーザー”ことチャイヤー・サソムサップの自宅を家宅捜索した犯罪制圧課(CSD)のトップだ。

彼は逮捕される直前に「高所から転落して死亡」した。通常は3日間の通夜を行うにもかかわらず、アカラウット警察大佐はなぜか死後すぐに火葬されて色々な憶測を呼んだが、自殺したということになっている。

さて、逃亡7年の末についに逮捕されたカムナンポだが…

その後恩赦を受けて禁固30年だった刑期が5分の1になり…体調不良(と息子のソンタヤー文化大臣の要請)を理由に刑務所に到着して10分もたたないうちに病院に搬送され、VIPルームで入院生活を送ることに。最終的には、病気だからという理由で仮釈放された。

2019年6月、がんで亡くなった。

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