旧友
よくよく考えると、日本で会うのは初めてだった。
知り合って16~17年は経つが、これまで日本で会ったことは一度もなかった。
そんな旧友が18年ぶりに日本に本帰国した。
関西から1泊2日で上京してきた彼と新宿ゴールデン街で深夜まで飲み、当然のようにオレは終電を逃した。
ものすごく久しぶりに会ったのか?と言われれば、実際には数カ月ぶりだから大して久しぶりでもない。っていうか、1年に一度は会っている。
ただ…日本で会うのは初めてだったので、少し不思議な感じがした。
お互いに20代の一番ギラギラした頃にずっと一緒だった仲で、飲み歩いた時間で言えば間違いなく今までの人生で一番長く遊んでる。
一時期は毎日夕飯も食いに行ったりとずーっと一緒にい過ぎて、当時付き合ってた彼女に…
「彼と私どっちが大事なの?」と言われたことすらある(笑)
バイセクシャルの三角関係じゃなくても、こんなの言われることあるんだね…
作りたての会社がプルプルしてた頃に、急きょ彼に営業として働いてもらったこともあるので、仕事仲間でもあった。
飲みながら、自分で会社を起こさないのか?という話にもなったのだが…
オレの場合、色々とアイデアは浮かんだりするものの、いまいち気乗りしない。
なぜか?
自分なりに色々と考えてみたのだが、欲が薄れているのも大きい。
同期より抜きん出たいとか、異性にモテたいとか、もっとざっくり金持ちになりたいとか…なんでもいいのだが、欲というものは行動を起こす動機付けになる。
オレは社会起業家のようなマインドは持ち合わせていないので、必然的に行動を起こすための動機付けとして欲が必要だ。
社会貢献のような“崇高な”動機付けだろうが、欲という“不純な”動機付けだろうが、正直言って行動を起こすための起爆剤になれば何でもいい。
それなのに…達観したジジイみたいな穏やかな心境になってきちゃって、いまいち強い欲が湧いてこなくなっちゃったのだ。
仏教では煩悩は心身の苦しみを生みだすとされているけど、程度の問題じゃないか?と。実際には煩悩って人間の行動の元になるエネルギー源でもあって、完全悪というよりは諸刃の剣なんじゃないかな。仮にも煩悩を悪とするのであれば必要悪的な?
まぁ…別に悟りを開いたわけじゃないんで実際に欲がないわけではないんだけど、薄い!!
せめて「これでオレは社会の諸問題を解決させるぜぃ!」的な熱い気持ちがちょっとでもあれば、そっち方向で起業する場合の原動力にもなるんだろうけど、正直…全くない。
そうなると「がんがん金儲けをして、あんなものやこんなものを買って、グヘヘへェ」くらいの守銭奴パワーが必要なはずなのだが、正直…薄い。
道端に金塊とか落ちてねーかな?
くらいの薄~い金持ち願望。
もう少し自分を欲まみれ状態に持ってゆくために、毎晩寝る前に眼をギラつかせながら「カネ欲しい~、もっとカネ欲しい~、もっともっと」と呪文を唱えて自分を洗脳しようかな。
他に考え付いたのは…欲と表裏一体の部分もあるんだけど、不満の低さかな?
はっきり言って雇われの方が遥かに楽ちんである。それでも、待遇とか人間関係とか時間も含めた労働環境とかで自分の中の不満が募れば、その度合いによって「雇われよりも自分で…」という選択肢が出てくる。
ただ、そこまでの不満がなければわざわざ面倒くさい思いをしてまで自分でやらず、楽な方に走っちゃうでしょう。
っていうか…
究極的には…
働きたくないっ!!!!
ストーカー
18年ぶりに本帰国した彼は、バンコクから帰ってきた。
バンコク繋がりで全然違う話。
前回、バンコクに行った時に十数年ぶりにかつてのタイ人の同僚と再会した。
十数年という年月の間、お互いそれぞれの人生を送ってきたわけだが、彼女は中華系マレー人と結婚してインターナショナルスクールに通う中学生もいる母親になっていた。
待ち合わせ場所に現れた彼女が乗っていたのはレクサス。
タイでレクサスを買おうと思えば、一番安いモデルでも日本円で1000万円はする。
久しぶりに会って、飲んだ。
ただそれだけのことなのに、翌日から毎日電話がかかってくるようになった。
それも…LINEのビデオ通話で。
そもそも電話自体があまり好きじゃないのに、ビデオ通話なんて苦痛以外の何ものでもない。
とは言ってもオレがドライなだけで、十数年ぶりに再会したら普通はこんなもんなんだろか?と嫌々ながらも相手にしていた。
毎日電話がかかってきて「今は何をしている?」「これから何をする?」と干渉してくる。
全員日本人の中にタイ人1人で来ても言葉の問題もあったりして面白くないから、と必死になだめすかすが…ホントに店にやって来た彼女。
突然やって来たもんだから、オレの昔の彼女が乗り込んできたみたいな超絶微妙な雰囲気になって、皆が腫れ物に触れるように…というか触れないようにしたもんだから、彼女だけその場で浮きまくって針のむしろ状態に。
ただ、さすがはタイ人というか…強心臓で、そんなことはお構いなしにその場に居続けるという恐ろしい時間を過ごす羽目になった。日本人たちからは「早く帰らせろ」オーラが凄いし、タイ人の彼女は全然帰る気配がないし。
やっとのことで彼女が帰った後、冗談で言ったのにドンズベリするオレ。
日本に帰ってからも毎日ビデオ通話がかかってきて、1時間とか普通。
とりえあず…インターネット電話が普及した現在の世を呪ったね。
無料でビデオ通話できるようになってんじゃねーよ!!
あと、タイ語のニュアンスが分からなくて少し混乱する。
むちゃくちゃ「คิดถึง(キットゥン)」って言ってくる。
英語だと「I miss you」的な、日本語だと「恋しい、想っている、寂しい」的な言葉で、恋人同士でよく使ったりするが、用途はまぁまぁ広い。
地方からバンコクに上京してる子が「キットゥン・バーン」と言えば「実家が恋しい」ってことだし、「キットゥン・ポーメー」と言えば「両親を想ってる」ってことだ。
友達同士でも久しぶりだと使ったりするが、男同士では使わない。
で、ビデオ通話がかかってきて見ると彼女の隣には中学生の息子が座っている。
その息子の隣で、母親が知らない日本人のおっさんに…
さらには「あなたも私のことがキットゥンでしょ?」と言われ…
知らない日本人のおっさんが自分の母親にキットゥンしてる。
どーいうシチュエーション!?と思って。
つーか、オレが知ってる「キットゥン」より本来の「キットゥン」はもっとポップなもんなの? 日本人が言う「恋しい」よりもタイ人が言う「キットゥン」は軽い意味しかないのは理解しているが、それにしてもニュアンスが分からん!
とか言われても、オレのタイ語レベルではどういうつもりで聞いているのかさっぱり意味不明。
いや…毎日ビデオ通話かかってくるんでだんだんうっとおしくなってきて…
と思って。
と思って。
せめて昔付き合ってたことがあるとか、手を出してしまったことがあるとかなら分かるけど、別に何の過去もないのに何なの?!と。
よくよく考えたら…そんなに親しかったっけ?オレと彼女?
そういえば、タイ人って一度何かのスイッチが入ると途端に面倒くさくなるのを思い出したワタクシ。そのうちオレも電話に出なくなり…それでも着信履歴がすごいことになってるから、はっきり言っておこうと思い…
と伝えたところ、だいぶ大人しくなった。
何年住んでいたことがあろうと、所詮はオレも外人。何を考えているのか?よく分からん。