南アから日本に帰る【25】サバとベーコン

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第24話に続く第25話。

前回は東ヨーロッパを出るまでの話。

今回はトルコ・イスタンブールの話。

最適旅行期間

イスタンブールには1カ月半いた。

それだけいたらイスタンブールはかなり詳しいはず!と勘違いされることがあるが、実のところ驚くほど何も知らない。

滞在3週間を過ぎて初めて観光をしたのだが、アヤソフィアは中にも入ったが、ブルーモスクは外から見ただけである。

アヤソフィア内部に残る東ローマ帝国時代のモザイク画。

ブルーモスク(スルタンアフメト・モスク)の外観。

無料で中に入れるらしく、内部はすごくきれいらしい。

あっ、ガラタ塔には登っているな!

あとエジプシャンバザールには1度行っている。グランドバザールには行っていないけど。

イスタンブール名物のサバサンドも1回食ってる。

「いまだに食べてないの?!もったいない!」と言われて食べたのだが…

えっ?!焼サバをバゲットに挟んだだけなのに…な、なんじゃ、こりゃーっ!!とか、そんな驚きは一切ない。

焼サバもバゲットもレタスも玉ねぎも人生で一度も食べたことがない人なら話は別だが、それ以外の人にとっては「まぁ、こういう味でしょうね」と想像通りの味。

美味い不味いという話はしていない。

食べていないことの何がもったいないのか?食べた後も分からなかっただけ。

オレの思う旅の最適期間があって…

せいぜい1カ月だろうな。

アフリカの僻地とか、行く場所によってはどうしても移動で時間を使ってしまう場合もあるので3ヶ月は欲しいこともあるかもしれないが、そういう特殊なケースを除けば1ヶ月がベスト。

慣れれば慣れるほど感性が鈍くなってくるので、最初は新鮮に映っていたこともやがて何も感じなくなり“普通”になる。

そういう意味でも旅を本当の意味で楽しめる限度が1カ月じゃないかと。

ケープタウンを出発して1年が過ぎていたが、イスタンブールにいた頃がこの旅の倦怠期のピークだった。

宿から歩いて5分のところにあるブルーモスクを見に行くまで3週間もかかってしまうし、同じくらいの距離にあるグランドバザールは面倒くさくて1度も行っていないし、サバサンドにも興味が湧かないし…じゃあ、1カ月半もイスタンブールで何をやっていたのか?

ベーコン

イスタンブールのアジア側にあるエレンキョイで毎週開く木曜市がある。

ほとんどは普通に野菜を売っている露店が並ぶ青空市場なのだが、数軒だけ隣国からの密輸品を扱っている露店がある。

そこではブルガリアやジョージア(グルジア)から密輸された酒や豚肉加工品が手に入る。

豚肉、豚肉って、どんだけ豚肉が好きなんだよ?!ってくらい豚肉について書いている気がするが、実のところ豚肉好きを名乗れるほど好きというわけでもなく至って普通だ。

ダメと言われればやりたくなる、食べられないと食べたくなる、売られていないと手に入れたくなる、ただの人間の性である。ダメと言われない、普通に食べられる、普通に売られている豚肉に対してオレはさほど興味を示さない。

密輸品露店では、500g前後のベーコンの塊を7~10リラ(当時約620~890円)で買えた。

正規で豚肉を売っている店もあるにはあるが5000円/kgはするので、密輸品はかなり安い。

よく考えたらイスタンブールに来る直前までブルガリアにいたわけだから、あえてイスタンブールでブルガリアからの密輸品を買うのもおかしな話だし、何ならオレが密輸してくれば良かった話では?とは思うが…

イスラーム圏に入ると急に豚肉禁断症状が出ることをすっかり忘れていた。

バゲットに焼サバを挟んだだけの食べ物になぜそこまで興奮できるか理解できないオレと、ベーコンごときに片道40分もかけて青空市場に行くオレを理解できない他の旅行者。

「日本で普通に買えるベーコンをわざわざイスタンブールで探す意味あります?」とはサバ派旅行者の言い分だが、そっくりそのまま返してやる。焼サバをバゲットに挟むくらい日本でも普通に出来るわ!

サバとベーコンはお互いに分かり合えない。

サッカー

アリ・サミ・イェン・スタジアム(現トルコ・テレコム・アリーナ)で行われたガラタサライ対デニズリスポルの試合を見に行った。

イスタンブールをホームにする名門ガラタサライのサポーターは熱狂的であることで有名で、かつてはその応援時の声量の大きさでギネス記録を持っていたこともある。

肉体的な苦痛を感じる限界を超えた131.76デシベルがガラタサライの記録だが、現在のギネス記録はNFLのカンザスシティ・チーフスの142.2デシベルだ。

そんな世界的にもうるさいというか熱狂的なサポーターのホームスタジアムだけあって、入るためには厳重なセキュリティを通らなければならない。

スタジアムの入口にたどり着くには、鉄柵で囲われ、完全装備の機動隊が配備されたセキュリティチェックを抜ける必要がある。

問題は…収容人数が数万人のスタジアムなのに、鉄柵の内側に入るためのゲートが大人1人が通れる分の幅しかないこと。

人が押し寄せないようにするための方法としては理解できるが、このセキュリティゲートがボトルネックになって鉄柵の外側は日本の満員電車並みの密集状態になっていた。

数万人のサポーターが、1人ずつゲートを通ろうとしているわけだから当然と言えば当然。

そんな状況を見過ごさないのがスリである。

イスタンブール中から集まったのか?と思うほど、えげつない数のスリが集結していた。

スリたちは、1人しか通れないゲートに集中するサポーターたちを後ろからわざと押していた。意図的にさらなる密集状態を作り出し、意図的に押して押されての他人との接触が当たり前の環境を作っているのだ。

あっ、こいつはスリだな…というのは見ていると分かる。

分かっていて、最大限に警戒してそのスリを意識していたが、オレもポケットの中のものを盗られた。

さすがプロ!!

スリ同士のチームプレーもあるのかもしれないが、あれほど警戒していたのにすられた瞬間は全く分からなかった。

オレはポケットに入れていたメモ帳をすられた。

周囲を見回すと金銭的価値ゼロのメモ帳は地面に捨てられていたが、拾おうとしゃがむと地面に沢山の空になった財布が捨てられているのが見えた。

サッカーの試合自体は流れがダラダラしていたし選手たちもミスプレイが多く全く面白くなかったのだが、試合後に場外戦が待っていた。

何人かで観に行っていたのだが、そのうちの1人がスタジアムから出る時の混雑の中でスリにポケットの中に手を入れられた。

ちなみに、この時も誰かが意図的にグイグイと人を押して大混雑を作り出していた。

ポケットに入ってきた手を捕まえたところ、スリが大暴れ。

当然みんなで加勢して殴り合いに…いや、殴り合いというかスリを袋叩きの方が正確か…

仲間を助けようとしたスリもいたにはいたが、騒ぎが大きくなって目立つことを恐れてすぐ仲間を見捨てて逃げて行った。

でも、一瞬の出来事でしかなかった。

騒ぎで騒然となった途端、盾を持った機動隊が10人以上で突っ込んできた。

ガラタサライ・サポーターと、デニズリスポル・サポーターの乱闘かっ!?

たぶんサポーター同士の乱闘と思って突っ込んできたみたいだが、機動隊の対応の迅速さには驚いた。

実際にはスリ対スラレの乱闘だったわけだが、スリはその場で逮捕されて後ろ手に手錠をかけられて連行されていった。

オレの一眼レフカメラが壊れたのも、このスリとの乱闘のせいだ。

暴れるスリを殴り返すのに、一眼レフを持っていて手がふさがっていたので思わず一眼レフで殴り返したのだが、殴った衝撃のせいでピントが合わなくなった。

ファインダーを覗いてピントが合っていると実際にはボケていて、ファインダーを覗いてボケていると実際にはピントが合っているという難解極まりないカメラになってしまった。

もともとオレの写真はピントが甘いのだが、イスタンブールでスリを殴って以降さらに酷くなった。ピントが甘いのはオレの腕のせいではない、全部スリのせい。

ビザ

ベーコンを探し、スリと乱闘するためにイスタンブールに1カ月半いたわけではない。

ちゃんとした理由がある。

これから行こうとしている国のビザを取るのに恐ろしく時間がかかったのだ。

最大の原因はトルクメニスタンで、ビザを手に入れるために3週間も待った。

ちょうどその頃、トルクメニスタンは2か月ほどプチ鎖国をしていて外国人へのビザ発給を完全に停止していた。

理由は、トルクメニスタンの初代大統領にして終身大統領であらせられたトルクメンバシュことニヤゾフ大統領が急死したせいである。

その影響をもろに受けて、ビザ取得に3週間もかかった。

在イスタンブールのトルクメニスタン大使館に「そろそろ鎖国を解除する予定は?」と電話をしてビザ発給再開のタイミングを確認。

「もう開国するよっ!」と返答をもらったら、喜々としてビザの仮申請をする。

仮申請をすると大使館が本国に「こいつにビザを発給してもよいか?」お伺いをたてる。

本国から「いいよ」と返事がくるまでは本申請できるかどうかも分からない。

しかもトルコとトルクメニスタンの間で「ビザ発給していい?」「いいよ」のやりとりを“手紙”でやっているので、めちゃくちゃ時間がかかる。

オレごときへのビザ発給なんて機密事項でも何でもないんだからメールとか電話でいいだろ?とは思うが、あくまで郵送でのやりとり。

「そろそろ本国から返事の手紙は届いてます?」という確認の電話を大使館に3回もかけている。

3週間も待たせておいて、発給してくれたのはわずか5日間有効のトランジットビザ。

せめて7日間は欲しい!と交渉してみたが「ダメ!」と瞬殺された。

トルクメニスタンに加えて、ウズベキスタンとイランのビザもイスタンブールで取った。

つまり、何の理由もなく1カ月半もイスタンブールにいたわけではない。

ビザ取得のためただただジッと待つ必要があっただけで、待つ以外に出来ることがないので仕方なくベーコン探しやスリ袋叩きに精を出しただけである。

あっ、あとイスタンブールでボーリングもしてる。

ビザさえ取得できればイスタンブールに滞在している理由はない。

日本に向かって東へ移動していくだけである。

投げ銭Doneru

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