第15話に続く第16話。
前回は、中東を北上した話。
今回は、いよいよヨーロッパに入って行く話。
地中海
タイに住んでいた時、海外留学先として悩んでいたのがケープタウンとマルタだ。
アフリカとヨーロッパで何の共通点もなさそうだが、実はとんでもない共通点がある。
どちらも地中海性気候!!
タイは熱帯モンスーン気候なので一年中が高温多湿でとにかく不快だ。
ジト~ベタ~と、まとわりつくような湿気の高さの中に6年も住んでいると、サラッと乾燥した気候に大いなる憧れを抱くようになっていた。
特定の国や都市に憧れを持ったことはないが、“憧れの気候”はあった。
結果的にケープタウンを選んだのだが、とにかく気候がめちゃくちゃいい!!
我ながらバンコクみたいな気持ちの悪いところによく住んでいられたな!と思うくらい、全然違う。
夏と冬はきちんとあるが、夏はカラッと乾燥していて暑すぎることもなく快適そのもの。
こ、これが地中海性気候かぁ…そう、ケープタウンはアフリカ大陸最南端のくせに“地中海”性気候なのである。
それが今、ついに本場の地中海にやって来た。
トルコのアンタルヤは地中海屈指のリゾート地だ。
ローマ帝国時代のハドリアヌス門があれば、旧市街は紀元前のヘレニズム時代に築かれた城壁の中にオスマン時代の家屋が密集する、非常に雰囲気が良い街。
そんなアンタルヤ近郊の島を巡った。
ビザンツ帝国時代に築かれた海賊対策用の古城跡が残るカレキョイ。
カレキョイの目の前には、海に沈んだ古代都市遺跡があるケコヴァ島がある。
シュノーケリングで海底に沈んでいる都市遺跡を見るのだが、この頃になるともう遺跡とかどうでもよくなっていた。
遺跡という名の瓦礫なんかより、ウニだろ?
海に潜ってはケコヴァ海底遺跡ウニを獲って喰らう。
エジプトのシナイ半島にあるダハブに2週間いたのも素潜りの練習をするためで、今こそウニ漁で練習の成果を発揮するのだ。
同じ船にポーランド人が乗っていたのだが、ウニなどというトゲだらけの生物の気持ちの悪い色をした中身を見たことも食べたこともないと最初は渋っていたが「魚を生で食うイカれたシーフード民族日本人に騙されたと思って食ってみろ」と体験させてみると…
「メロンの味がする」とドハマりして、最後まで一人潜っては食べ、潜っては食べを黙々と繰り返していた。
地中海でウニ漁をした後は、トルコを出国してギリシャに入る。
エーゲ海に面したマルマリスから船でギリシャのロドス島に渡った。
ロドス島
ケープタウンを発って早7カ月・・・ついにヨーロッパにやって来た!!
オレにとって初めてのヨーロッパは、エーゲ海に浮かぶギリシャのロドス島である。
現シリアのクラック・デ・シュバリエを築城した聖ヨハネ騎士団の本拠地だった島だ。
聖ヨハネ騎士団は、本拠地によってロドス騎士団と呼ばれたり、オスマン帝国に追い出されてマルタ島に本拠地を移してからはマルタ騎士団と呼ばれたりする。
旧市街は「ロドスの中世都市」として世界遺産になっている。
思っていたよりも暑かったが、それも日陰に入ってしまえば「ヨッ!地中海性気候!」と掛け声をあげずにはいられないくらい快適そのものである。
島中部のリンドスにあるアクロポリスにはスクーターを借りて行った。
岩山の上に建つアクロポリス遺跡と、白い街並み、きれいな海がイメージ通りのエーゲ海の島って感じ。
ロドス島は宿も含めて居心地の良い島だった。
宿で住み込みで働いていたのは20代前半のマレーシア人ハナちゃん。
彼女の趣味は「聖書を読むこと」という、今までに聞いたこともない趣味を持っているクリスチャンで、ここロドス島で聖地エルサレムに行くチャンスを狙っていた。
マレーシアのパスポートには「This passport is valid for all countries except Israel(このパスポートはイスラエルを除くすべての国で有効)」と書かれていて、マレーシア人のハナちゃんはイスラエルに行けない。
ただ、今ネットで調べてみたところ…だいぶ昔からマレーシア内務省に洗礼証明書とか教会からの所属証明を提出申請して許可されれば巡礼のためにエルサレムを訪れることは可能っぽいが…ハナちゃんは野良クリスチャンで証明書類の準備が出来なかったのだろうか?
趣味が「聖書を読むこと」だけでは許可が下りなさそうではある。
逆のパターンもある。
シリアのクネイトラに行く際、シリア内務省にゴラン高原入域申請をしないといけないのだが、偶々マレーシア人の旅行者と一緒に行った。
内務省の担当官は英語が読めないのだが、マレーシアのパスポートに書かれた「イスラエルを除く」の『イスラエル』の部分に「なんかイスラエルって書いてある!!」と強く反応してしまい、そのせいで許可を取るのにものすごく時間がかかった。
もちろん反対にイスラエルのパスポートでマレーシアに入れることも出来ない。
ちなみに…マレーシアは国教がイスラームだから分かるのだが、なぜか北朝鮮もイスラエルを国家として認めておらずイスラエル人は北朝鮮に入国できない。
反イスラエルの立場を明確にしておいた方が、アラブ諸国に対して武器を売りやすいという“ビジネス反イスラエル”なのが北朝鮮。
結局、ロドス島のハナちゃんが最終的にエルサレムに行けたのか?は分からない。毎日「エルサレムに行けますように」と祈っていたが、神に祈る前に自力で何とかしてみたら案外すんなり行けそうではあるけど。洗礼証明書とか何とでもなりそう・・・と思ってしまう邪悪なオレ。
アテネ
位置的にはロドス島とアテネのちょうど中間にある有名なサントリーニ島にも行きたかったのだが、残念なことにロドス島からは船が1週間に1便しかなくて諦めている。
一方、ロドス島から首都アテネまでは毎日フェリーがある。
他の島には寄らず、20時間かけてアテネに上陸した。
アクロポリスからアテネの町を見渡すと、あまり高い建物がない。
京都は市街地に高さ31mを超えるビルを建てれないが、アテネの市街地は21mを超えたらダメらしい。
皆のものであるパルテノン神殿はどこからでも見えるべき!ってこと。
こちらもランドマークであるアテネアカデミーの建物。
バルカン半島
ギリシャからバルカン半島を北上して行くことにしたのだが、ギリシャからアルバニアに行く国際バスがまぁまぁ大変であった。
アテネを発ったバスはイオニア海沿いを北上しながらアルバニアを目指していた。
バスは徐々に山に入っていき、ピンドス山脈を越えてアルバニアに入る。
出発から6時間が経過した深夜2時、バスが急停車。
周りの乗客たちが「オボボ!オボボ!」と慌てふためきながら我先にとバスを降りてゆく。
えっ?オボボって何ですか?!
意味が分からないので全員が降車するのを待って、一番最後にバスを降りたのだが…
バスを降りてみるとエンジンからものすごい白煙が上がっていて、運転手が「爆発するかもしれない」と消火器をぶっかけていた。
気温10度の山の中、寒さに震えながら1時間ほど外で待つ。
1時間後、運転手に「乗れ」と言われて再び乗り込んだはいいが、走り出して10分ほどで今度はバスの車内に白煙が充満。
さすがにこれにはオレも「オボボ!オボボ!」言いながらアルバニア人の乗客たちと一緒にバスから飛び降りた。
どうやらアルバニア語で「オボボ(Obobo)」は「オーマイガー!」的な、もしくはFワード的な意味を持つらしく、日本語で言うところの「やばっ!」とか「クソっ!」みたいな感じらしい。
「えぐっ!」が「やばっ!」の上位互換に使われるように、「オボボ!」の上位互換は「ウブブ!」らしく、もしバスが爆発炎上して自分の荷物が丸焦げになったら「オボボ!」から「ウブブ!」に変化すると思われるが、白煙が上がったくらいではオボボで事足りるようだ。
再びバスは走り出したが相変わらずバスは白煙を上げ続けていて、もはや乗客たちはいつでもすぐに逃げ出せるように席には座らず立って乗っている。
オレもいつでも「オボボ!」言える態勢を整えて乗っていたが、バスはなんとか国境まで持ち堪え、そしてアルバニア側の国境で力尽きた。
震えるほどの寒さの山間部の国境で放り出されたわけだが、バスの運転手がウブな外国人旅行者に気を遣ってくれて、首都ティラナに向かう乗用車をヒッチハイクしてきてくれた。
他の乗客たちは何時間かかるか分からない代替のバスが来るを待つらしく「なんか悪いな…」とは思ったが、皆「いいから行け」というので「あら?そうですか?」と遠慮なく乗らせて頂くことに。
運転手付きのフォルクスワーゲンの新車SUVに乗ったお金持ちにティラナまで乗せて行ってもらったのだが、道中で特に会話らしい会話はしていない。
なぜなら、オレはつい先ほど覚えた「オボボ」しか知らないからだ。
会話で全て「やばっ!」と返してくるのはギャルくらいだが、オレはギャルではない。外国人旅行者の返しが全て「オボボ!」だったら…オレがアルバニア人の立場だったら100%イラッとする。
タダで乗せてもらっている以上、車のオーナーをイラッとさせるのは得策ではない。
乗せてもらっておきながら言うのもなんだが…格闘家みたいな体をした運転手が、アホみたいに急加速と急ブレーキを繰り返して山道をぶっ飛ばすので乗り心地は最悪だった。
アルバニアは山がちな国だ。
真夜中に白煙を上げながら国境を越えたので、景色は見ていないがギリシャとの国境地帯はこんな感じらしい。
アテネを発って14時間、アルバニアの首都ティラナに到着した。