南アから日本に帰る【11】出アフリカ記

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第10話に続く第11話。

エチオピアから先のスーダンを陸路で北上できなくなったので、海を渡ってアラビア半島に抜けることにした。

山を下りる

標高2355mの首都アディスアベバから、標高1300mのエチオピア第二の都市ディレダワまで10時間かけてバスで移動した。

ディレダワからは下界に降りて砂漠地帯に入っていく。

エチオピアの国土のほとんどは高地だが、東の端は一気に低地になる。

場所は違うが…エチオピアの北東にあるアファール盆地からエチオピア高原を見た景色はこんな感じ。

山々が壁となって侵入者の行く手を阻む。

しかもこのエチオピア高原にどこから攻め込もうにも砂漠を越えて来ないといけない。

北のスーダンから攻め込もうにも砂漠が…南のケニアから攻め込もうにもオレがローリーで55時間かけた砂漠が…東の海岸線から攻め込もうにも気温50度を超えることもあるアファール盆地(写真はダロール)やオガデン砂漠がある。

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馬とか徒歩で移動していた時代に、王様から「よしっ、エチオピアを征服するぞ!」って言われたら、オレなら「やめときましょう」って進言する。

「戦う前に砂漠でかなり兵力を削られます!大軍になればなるほど兵站が崩壊します!」

だいたい…アレクサンドロス大王だって、古代ローマ帝国だって、オスマン帝国だって、エチオピアまでは来れていないじゃないか。

「しかも、ようやく砂漠を越えてもその先に待っているのは平均標高2000mを超える山岳地帯です!しんどいっす!」

そりゃあ、独自の文化を発展させて独立を守って来た特異な国にもなろう。

さて、ディレダワからバスに乗り込み、山を下って隣国ジブチとの国境を目指す。

あれ?エチオピアとジブチの間にはきれいな舗装道路が走ってるって聞いてたけど…

砂漠の未舗装道を走っとる!!

遠くに砂煙をあげて走っている車が見えるが、あっちにも道があるのか?

道路脇にはいつの時代か分からない破壊された戦車の残骸が転がっていた。

っていうか、これはどこを走ってるんだ?と不安になりながら不毛地帯をひた走る。

下界の砂漠は暑い…暑くて耐えられん…

でもバスの窓は開けさせてくれない。

なぜなら悪魔が入ってくるから!!

いやいや、窓を閉め切ったノンエアコンバスで炎天下の砂漠を走ることの方が悪魔の所業!

悪魔にやられる前に、熱中症でやられるわ。

そんな悪魔的バス移動の末に辿り着いたのが、エチオピアとジブチの国境デウェレ。

どこだよ、ここっ!?状態である。

な~んにもない砂漠のど真ん中でエチオピアを出国したら、1kmほど歩いて国境を越える。徒歩以外に国境を越える手段はない。

手押し一輪車で荷物を運ぶエチオピア人の後についてジブチに入国した。

ジブチ

ディレダワを発ってから13時間、ジブチの首都ジブチ・シティに到着。

紅海に面した四国よりちょっと大きいくらいの小国ジブチ。

ジブチを簡単に説明すると、むっちゃくちゃ暑い!!

インド洋に面したタンザニアのダルエスサラームを出て以来ずっと内陸部を移動してきたが、やはり沿岸部の暑さは次元が違う…

特にハムシン(熱風)が吹く5~10月がやばいらしいが、まさにそのやばい時期にジブチに行ってしまったオレ。

この時期のジブチのオフィスアワーは朝7時~12時と夕方16時~18時みたいな。

昼12時から夕方16時まではシエスタ(昼休憩)に入る。だって暑過ぎるから。

もちろんシエスタ中は銀行から店、レストランも閉まる。そして銀行や官公庁も夕方16時から午後の部が開く。

陽が出ている時間帯に街を歩き回っても、どこも開いていないし、ほとんど人の気配がないので寂しいが、そもそも陽が出ている時間にお外に出るもんじゃない。死ぬ。

さて、ジブチに来た理由はアフリカ大陸を脱出し、アラビア半島に抜けることだ。

その主目的を達成すべく、ジブチ港に行く。

内陸国である隣国エチオピアの海の玄関口の役割を果たすジブチ港は、アフリカ屈指の規模を誇る港だ。

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そんなジブチ港に行き、ガードマンに「イエメン、イエメン」と連呼して中に入れてもらう。

中に入ったら手当たり次第にイエメンを連呼していると、ある建物を指差されたので、その建物に入ってイエメン連呼すると「ちょっと待て」と1時間ほど待たされる。

1時間放置された挙句、全然関係のない謎の部署で謎に放置されていたことが判明したので「チッ」と舌打ちしながら建物を抜け出し、自力でイエメン行きの船を探すため埠頭に入ろうとする。

埠頭に入るにはセキュリティを通らないといけないが、なかなか中に入れてくれないのでひたすらにイエメン連呼で乗り切ろう。

埠頭に潜入成功したら、また手当たり次第にイエメンを連呼しているとアラビア語しか話さないお兄さんが案内をしてくれる。

灼熱の炎天下を歩いてお兄さんについて行くと、お兄さんは「イエメン」と言って指を指した。

おぉーっ、巨大なコンテナ船!!

巨大コンテナ船に向かってさらに歩いてゆくと、お兄さんは「イエメン」と言ってまた指を指した。

えっ?錆びだらけのボロボロタンカーの方?!

巨大なコンテナ船の影にボロボロのタンカーが停泊していた。

なんだ、ボロいタンカーの方かぁ…と思いながらさらに歩いてゆくと、お兄さんは「イエメン」と言ってまた指を指した。

えっ?これ?!

振り返ると、お兄さんは満面の笑顔でこのボロボロ木造船を指差し再び「イエメン」と言った。

その小ささゆえ巨大な船たちの影に隠れて見えていなかったが、探していたイエメン行きの船はこれだった。

ウソでしょ?!とは正直思いました、はい。

荷役人夫たちがせっせと麻袋を船内に運び込んでいる。

船に近づくと船長らしき人物が出てきて、イエメンまで乗せて行ってくれないか?交渉をする。

アラビア語しか話せない船長とは、紙とペンを使って交渉。

分かったことは、この船は3日後の午後3時にジブチ港を出港してイエメンのモカに行くこと。5,000ジブチ・フラン(当時約3,240円)払ったら乗せてくれること。しかも飯付き。

心躍るか?と言えば、まったく心躍らないが致し方あるまい。

この見た目が怖すぎのボロボロ木造船でアフリカを出よう!!

海を渡る

ピーナッツとシナモンを満載したアル・ナスル号。

操舵室以外の船室などないので、貨物の上が“客室”だ。

船長はイエメンまで12時間ほどの航海だと言っていたが、別の情報筋によると24時間から7日かかる可能性もあるとか。

エンジンが故障して漂流して7日かかったこともあるなどという恐ろしい話も小耳にはさんだので、万が一の漂流用に十分な水と食料を用意して乗り込んだ。

だって…いかにも故障しそうな船じゃん!!

当然のことながら、救命胴衣なんてものはない。

故障&漂流よりも怖かったのが…ソマリア海賊転覆!!

エンターテインメントとしての『パイレーツ・オブ・カリビアン』はワクワクドキドキできるだろうが、リアル世界の『パイレーツ・オブ・ソマリアン』は一切ワクワクできん!

ドキドキはする。

ただ、ソマリア海賊の出撃拠点はプントランドやガルムドゥグで、ジブチとモカの航路を考えると距離が離れているから襲われることはまずないでしょ?と自分を安心させる。

だいたい、海賊もこんなおんぼろ木造船なんか襲わないだろう。

船長にソマリア海賊について聞きたかったが、海賊をアラビア語で何て言うか知らんし、ボディーランゲージで海賊は表現できん。

海賊より転覆の方が現実的に怖い。

オレが乗る1カ月前にジブチ・イエメン間の船が転覆して多数が死んだと聞いて、そっちの方が心配だった。

繰り返すが、救命胴衣なんてものはない。

夕方5時、ピーナッツとシナモンとオレを積んだアル・ナスル号はジブチ港を出港した。

アフリカ大陸が徐々に遠ざかってゆく。

さようなら、アフリカ!!

ケープタウンを発って早4カ月弱、ずっと北上してきたアフリカ大陸からついに出る。

もうアフリカに来ることなんて二度とないかもな…と思いながら、遠ざかるアフリカを眺めた。

寝転んで夜空を見上げると満天の星と流れ星が見えた。

これだけ読むとロマンチックな雰囲気になりそうだが、現実は違う。

波にもまれ、降りかかる波しぶきに晒されて体中を海水でベトベトにしながら、上下左右に揺らされ続ける。

翌朝、目が覚めると陸地が見えていた。

アフリカ大陸を発って16時間、海賊にも襲われず、漂流も転覆もせず、無事にアラビア半島に上陸した。

投げ銭Doneru

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