チャルームのバカ息子トリオの話をしたら、別な2001年にタイで起こった事件を思い出した。
事件概要
2000年代前半、欧米の大手小売チェーンがアジアに進出をはじめた。
オレはいなかったので進出も撤退も知らないが、日本にもイギリス系テスコやフランス系カルフールが進出していたことがあったらしい。
タイには、日本に進出して来るよりも前から進出していた。
当時、テスコとカルフールの出店競争は傍から見ていてもなかなかえぐかった。
カルフールが出店したらすぐ目の前にテスコが出店、テスコが出店したらすぐ隣にカルフールが出店。
え?付き合ってんの?ってくらい。
大型店同士でこんなことをやりあっていて、しかもお互い24時間営業をされたらローカルの小売業からしたらたまったもんじゃない。外資系小売業チェーンの急速な拡大に不満を募らせ大きな抗議行動が起こっていた。
そんなテスコとカルフールの熾烈な出店競争があった2001年、テスコ(タイではロータスとして展開)を標的にした事件が続いた。
2001年7月:サムットプラカーン店で、カーペットの下に仕掛けられたアメリカ製M26手榴弾が爆発し従業員1人が重傷。 2001年7月:シーコンスクエア店で、ショッピングカートに仕掛け罠で使われたロシア製F1手榴弾が爆発し従業員1人死亡、買い物客1人重傷。 2001年11月:ウボーンラチャーターニー店で、駐車場の花壇に仕掛けられていた爆弾が爆発。負傷者はなく、テスコの広報担当者は「火薬量が少ないので恐らく子供のいたずらでしょう」と述べた。 2001年12月:ラマ4世通り店を狙ってM72A1対戦車ロケット弾が撃たれるが、外れてイスラエル国営エルアル航空のオフィスが入るビルにヒット。一瞬「ついにバンコクにも中東武装勢力が進出か?!」と勘違いされる。 2001年12月:バンナトラッド店が自動小銃で銃撃される。
死人が出たシーコンスクエア店のケースでは、ショッピングカート内に置かれた商品(肥料)を持ち上げると手榴弾のピンが抜けて爆発するブービートラップになっており、カートを片付けようとした従業員が犠牲になっている。
え?スーパーの店内でゲリラ戦ですか?
日本で同じようなことが起こったらどうか?は知らないが、スーパーマーケット向けて対戦車ロケット弾が撃たれるとか意味不明過ぎて、えー、マジで?!怖ぇーじゃんwwくらいの反応だったかな…少なくともオレの周りは。
チャルームの息子による警官殺しよりは騒がれなかったニュースだと思うが、あれって結局のところ何だったの?と20年ぶりに調べてみた。
結論から言うと、闇が深そうでよく分からん。
ロイヤル警備
実は、2件目の事件発生直後に現場で2人が逮捕されていた。
元軍人のプラコン容疑者(36)は、2件とも自分がやったと自白。
チョンチャイ容疑者(31)は、友達のプラコン容疑者に頼まれて手伝っただけと供述。
当初プラコン容疑者は取り調べに「上司に命じられて仕掛けた」と供述していたが、その後一転して「会社のために独断でやった」と会社の関与を否定。
プラコン容疑者は、ロータス全店舗の警備を請け負っていたロイヤル警備グループ社という会社の社員だった。
“請け負っていた”と過去形なのは、実は事件直前の6月26日からロータスはロイヤル警備社との契約を打ち切ってゼネラル警備グループインターナショナル社という別の警備会社に切り替えたばかりだったから。
契約を切られたロイヤル警備社は、従業員2,700人の内1,000人を解雇するほどのダメージを負う。
プラコン容疑者は「店内で爆発事件を起こすことで、ロイヤル警備社と契約していた時の方が安心だったと思わせたかった」と犯行の動機を供述している。
一方、警察はプラコン容疑者単独での犯行ではなく、犯行を命令した黒幕がいるとしてロイヤル警備社のトップを殺人未遂と爆発物所持の疑いで逮捕。
それが国防大臣秘書室附のモンコル中佐…タイ国軍の将校である。
現役将校が副業で警備会社を経営してるパターンのやつ。
情報筋によると、ロイヤル警備社はロータスの幹部と太いパイプを持つチャムナン大佐という軍人の口利きがあって何とか契約を結ぶことが出来たそうだ。
もちろん、そのために多額の賄賂を払って。
当初は仲良くやっていた2人だが、徐々にチャムナン大佐がより多くの分け前を要求するようになったことで亀裂が生まれる。
そんな状況の中でロータスが契約を切り替えたのが、ゼネラル警備社だった。
こちらもタイ国軍の現役将校であるアーコム大佐が副業で経営している会社だ。そして口利きをしたのはチャムナン大佐。より多くの分け前をくれる方を選んだのだろう。
こうして、ロータスとの数十億バーツ相当の契約を巡って警備会社(=軍人グループ)間でトラブルになっていたのが事件の背景にあると思われた。
実際、ロイヤル警備社の顧問を務めていたヒマライ中佐は両社間でトラブルになっていたことを認め、ゼネラル警備社との調停のために場を設けることが自身の役割だったと述べた。
タイ国軍最高司令部のトライロン中将に仲裁を依頼したものの「汚職事件に発展する可能性のあるトラブルには関与したくない」と断られている。
ちなみに、ヒマライ中佐は風俗王チューウィットの地上げを手伝って『スクムビット・スクエア』の破壊を計画・指揮した罪で2年後に逮捕される。チャムナン大佐やアーコム大佐も絡んでおり、破壊に必要な数百人の人員を送り込んだのはゼネラル警備社だった。
手榴弾爆発事件の黒幕として逮捕されたモンコル中佐だが…
逮捕直後に「お腹が痛い」と入院。病室のベッドの上から記者団のインタビューに答え、関与を全面否定。逆にロータス経営陣を訴えると述べた。
この事件をきっかけに、ロータスはゼネラル警備社との契約も解除した。
ノッポーン容疑者
軍人経営の警備会社同士のトラブルが明るみになって以降、数カ月間は何事もなく終わったかのように思えた11月に再び爆発事件。
ただ、11月だけ場所がバンコク周辺ではないし、7月の2件や12月の2件とは明らかに毛色が違うので、これはこれで別のような気もする。
「子供のいたずら」ではないと思うけど。
12月5日早朝、都心のラマ4世通りで使い捨てM72A1対戦車ロケット弾が撃たれ、使用済みのランチャーがロータス店から800m離れたゴミ箱に捨てられていた。
2日後、日付が変わったばかりの7日深夜、今度はバンナトラッド8kmのロータスが自動小銃で掃射される。駆けつけた警察は現場に落ちていた携帯電話を発見し、すぐに容疑者を特定した。
住所はバンコクに隣接するサムットプラカーン県のテパラック通りムーバーン・サシカーン1524/93、名前はノッポーン・スワンプルサチャート(นพพร สุวรรณพฤษชาติ)47才。
事件発生から数時間後に地元警察はノッポーン容疑者宅を取り囲むも、立てこもったノッポーン容疑者から銃撃され、手榴弾を投げられ、副署長が負傷。
緊急要請を受けて犯罪制圧課(CSD)の特殊部隊とアリンタラート26警察特殊部隊が出動して、母親や妻を使った投降説得が始まる。
7日夕方、窓から投げようとして跳ね返ってきた手榴弾でノッポーン容疑者死亡。
突入阻止のためにいくつも仕掛けられていた手榴弾を使った罠を解除しながら家宅捜索をした警察は、ノッポーン容疑者宅から大量の武器弾薬を発見。
その中にはM72A1対戦車ロケット弾や、7月の事件で使用されたF1手榴弾も含まれていた。
自宅から押収したCD内のファイルは高度な暗号化がされており、自分たちで解析が出来なかったタイ警察は暗号解析のためにハッカーに協力を要請。
解析したファイル内の情報から判明したのは…
ノッポーン容疑者は元タイ国軍の諜報部員だったが、その後は武器商人になりスリランカの過激派タミル・イーラム解放のトラや、ミャンマーの反政府勢力などに武器を流していた。
自宅にあったのは“商品”だったようだ。
一方、事件の動機としては…
自身の母親も小さな卸売業を営んでいたが外資系小売業チェーンの進出により廃業に追い込まれたことで、外資に対する反感を強めていたようだ。外資を追い出したいローカルの小売業者たちと利害が一致したことで、ノッポーン容疑者は“反外資活動”のための資金援助を受けていたことを示唆するような文書も見つかった。
ただ、容疑者本人が死亡したため多くの謎を残したまま全容は解明されなかった。
ノッポーン容疑者が死亡した4日後の12月11日、タイの東北ウドーンターニー県で通りがかった人が落とし物のM72A1対戦車ロケット弾を拾って警察に通報。
落とし物があったのはロータスのウドーンターニー店から800mの地点で、ランチャーの先端が開いて発射準備が出来ている状態だった。
2011年、カルフールはタイ市場から撤退。
今年2020年、テスコは東南アジアでの事業をタイ最大の財閥CPグループに1.1兆円で売却。CPグループを束ねるチャラワノン家の総資産は3兆1,446億円。タイ長者番付で5年連続1位だ。
あの事件が続いた2001年から約20年経って、目の敵にしていた外資はいなくなり今度はタイ資本が“外資”として近隣諸国に進出するようになっていた。