ノーベル平和賞の人とネオ義和団の話

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エチオピア

ブルームバーグのオピニオン記事にこんなのがあった。

The World’s Deadliest War Isn’t in Ukraine, But in Ethiopia (世界最悪の戦争はウクライナではなく、エチオピアにある)

“世界最悪”というか“世界で最も犠牲者を出している”現在進行形の戦争という訳し方にしたら、う~ん…どうなんだろ?とは思うが、その可能性もありえなくはない。

この記事ではゲント大学(ベルギー)の研究チームが算出した推定死者数50万人を根拠にしているんだけど…

50万人という数字には、直接的な戦死以外にも、兵糧攻めによる餓死者などの間接的なものも含めている点を踏まえても、正直よく分からない。

というか、当事者たちも含めて誰も正確な死者数は分からないだろうな。

意図的に世界から隔絶させた場所で行われている戦争なので、多くのことが闇の中。

2カ月前の国連WFPの報告ではティグレ州の人口の37%にあたる200万人が極度の食料不足(IPCフェーズ4~5相当:緊急事態~大惨事)に陥ってるらしいから、最も犠牲者を出している戦争である可能性もありえなくはないが正解を知りようがない、としか言えない。

なお、SNS上ではエチオピア政府支持者たちによる「ティグレ州で飢餓は存在していない。飢餓はフェイクだ」という主張が散見される。

ちなみに最新の状況としては…

先週3月24日、エチオピア政府はティグレ州への人道支援のために停戦を一方的に宣言。

宣言はしたが今のところティグレ州に人道支援物資は何一つ入って来ていないのは事実のようで、物資ではなく多数のエチオピア兵を満載したトラックがティグレ州との州境から約10kmのアムハラ州コボに集結しているという情報もある。

これまでの経緯を考えると、“人道支援のため”アピールは額面通りに受け取れないことは確か。去年、エチオピア政府による人道支援の妨害に懸念を表明した在アジスアベバの国連職員7人を『内政干渉』したとして国外追放しているのに、急に人道支援に前向きになったとは考えにくい。

“人道支援のため”アピールはあくまで対外的なもので、世界の目がウクライナに向いている間に目立たないようにひっそりと何かを狙っている可能性もあり。

近々(今週か来週)2年目に入ったティグレ戦争に決着をつけるべく大きな動きがあるかも。

なお、ウクライナ戦争に関してエチオピアのアビィ首相は「すべての関係者が現状に代わる平和的な選択肢を模索する中で、平和が浸透することを心から願う」と声明を出している。「戦争のすべての当事者は最大限自制し、ヨーロッパの壊滅的な危機を終わらせるために外交努力を強化すべき」とも。

さすがノーベル平和賞受賞者の言葉は重みが違う。

さすがティグレ側との和平交渉を一切拒否しているだけある。

ウクライナ

そして、ウクライナ

単純に死者数で比較するような話でもないが、エチオピアや他の国での戦争と比較して今もっとも注目されている戦争であることは間違いない。

最近テレビとかでも取り上げられたりして、ずいぶんと話題になっているアゾフとか。

ロシアがウクライナ侵攻を正当化するための口実としてよく利用しているやつ。

ネオナチね…

民兵組織として結成された当初の旧アゾフ大隊構成員のキーワードとしてネオナチ、フーリガン、地下格闘家、ブラック・メタラー(NSBM系)が出てくる時点で、少なくともオラオラ系のチンピラ集団であったことは確かだろう。

ただ、現在のアゾフ連隊が白か?黒か?で言えば個人的にはグレーで、ネオナチとは縁もゆかりもない真っ白でもないし、隊員全員ネオナチだとする真っ黒でもない。

白寄りのグレーか、黒寄りのグレーかは客観的に証明のしようがないので、どれだけウクライナ専門家やらロシア情報通に「アゾフは変わったんだ!」とか「いや変わってない!」とか見解を言われたところで「あー、そうなんですね…」と参考程度にしかならん。

個人的な捉え方は、このCNNの記事が一番近いかも。

A far-right battalion has a key role in Ukraine’s resistance. Its neo-Nazi history has been exploited by Putin

年々、アゾフ連隊とアゾフ運動(いわゆる政治部門ナショナル・コープス)の繋がりはゆるやかになっており、隊員にはネオナチとの親和性がないウクライナ人も含まれている。

2015年当時、アゾフ大隊自身が「隊員の中に10~20%の極右過激派がいる」と主張していたが、現在ではその数字はもっと小さくなっている可能性がある。

何百万人もの難民が発生し、ウクライナの都市が計り知れない被害を受ける中、ロシアがアゾフ運動のようなマイナーな存在に固執することには、クレムリンがこの戦争をイデオロギー的闘争としてもっていきたい意図がある。

でもあえて、この際だからロシアの言う“アゾフはネオナチ部隊”ということにしよう。

だとしても、ネオナチがいるから他国に侵攻して首都を攻めていいと思ってるって…120年前じゃないんだから。

北清事変みたいな発想じゃん。

それが許されるなら、もし排外主義を標榜するネオ義和団が今の中国に現れたら日本も出兵してもOKになるな。

きっと「戦争は良くないが、中国側にも攻められる原因を作った責任がある」って鳩山由紀夫とか鈴木宗男あたりが心強いフォローをしてくれそう。

Unknown author, Public domain, via Wikimedia Commons

でも、もしネオ義和団が現代の世に甦っても中国に攻め込んじゃいけないんだったら、ロシアがネオナチを口実にウクライナに攻め込むのもダメだろ。

ネオナチと同じく口実にしている「ロシア人保護のため」にしたって、大日本帝国の邦人保護を目的とした山東出兵と同じで100年前の世界観かよ。

だいたい、ネオナチの問題は“お互い様”の問題であって、東ウクライナでロシア側に立って戦っているネオナチ『ロシア帝国運動(РИД)』とか(正教とは何の関係もない自称)『ロシア正教軍』はどうなんだ?という話になっちゃう。

アゾフは、ただのロシアの口実にしか過ぎないけど…

個人的にちょっと心配なのは、口実として利用したものが結果として現実になること。

戦争という異常な環境下において愛国心が爆上がりし過ぎて、ネオナチのような極右思想が心に刺さりやすくなって戦後のウクライナでネオナチが勢力を拡大するパターン…

で、その流れを知らない多くの人が結果だけをみて「ほらみろ、結局ロシアが正しかったんだ!」と思ってしまう。

あまり現実的ではないにしろ、そっちの方が心配だ。ネオナチの勢力拡大そのものが心配ってより、口実が現実になった時の影響という点で。

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