引き続き、ジンバブエの土地問題。
クーデターとは直接関係ないけど、知っておくと「クーデターを起こした側」と「クーデターで失脚した側」が実は同じ穴のムジナだと分かる。
前回、白人から黒人への土地の再分配が進まなかった理由を書いたけど、ひとつ大事なことを書かなかった・・・
実はムガベは土地を再分配をしていなかったわけじゃない。
一般ジンバブエ国民に再分配しなかっただけで・・・
ムガベ一族とその取り巻きには再分配していたのだ。
『ファストトラック土地改革プログラム』で白人農家から押収された1400万ヘクタールのうち、約半分は2200人の“エリートたち”によって分配されたという。
“エリートたち”というのは、閣僚全員、与党ZANU-PFの政治委員全員、州知事全員、政府高官たち、最高裁判所の裁判官たち、その他は警察・軍・CIO(諜報機関)の上層部200人近く。
下々の民衆には半分だけおすそ分けして、残りはムガベ一族と取り巻きたちで山分け!!
この中には、クーデターを主導して事件後に第一首相になったコンスタンティノ・チウェンガ国軍司令官も含まれている。
かつて「私はムガベ大統領にしか仕えない」と公然とアピールしていたこの男、首都ハラレ近郊に2カ所の農場を所有(公的には閣僚レベルでも1カ所しか所有できないことになっている)。
さらに東マショナランド州チャコマにある広さ1200ヘクタールのドックソン農場は、チウェンガ司令官の妻(当時)だったジョサリン・チウェンガが強奪。
怯える白人農場主に銃を突きつけ「お前の白い血を流してやろうか」と脅迫して不法占拠。
ちなみに、ジョサリンは司令官と離婚後の2014年に農場から追い出されている。
じゃあ、ムナンガグワ新大統領は清廉潔白か?というと・・・
そんなわけがない!!
ムガベの古参の最側近だった男の過去なんて真っ黒ですよ。
独立直後にンデベレ人を虐殺した『グクラフンディ』をほじくり返そうとすれば、とばっちりを受けてムナンガグワの関与までバレちゃう。
つまり、クーデターはあくまで後継者争いのライバルであるG40派の粛清であって、ムガベ体制そのものの否定は自分たちの首を絞めることにもなると。
引退間近だったムガベ組長のジンバブエ組。
ラコステ一家を率いるムナンガグワ若頭が二代目を襲名できると思っていたのに、元タイピストだったグレース姉御が急に野心を露わにしてG40一家を引き連れて組の乗っ取りを画策。
ムナンガグワ若頭はグレース姉御を失脚させるために、武闘派チウェンガ本部長と組んでムガベ組長に引導を渡した。
トップの世代交代があっただけで、任侠団体ジンバブエ組はジンバブエ組のまま。
所詮は今回のクーデターはこんなもんじゃないか?と思ってます。
ところで、白人農家をボコって土地を力ずくで奪う『ファストラック土地改革プログラム』はそもそも世紀の愚策だったのか?という問題もあって・・・
2017年、ジンバブエにおけるトウモロコシの収穫量は過去20年で最高だったという数字などを出したうえで、
『ファストトラック土地改革プログラム』は黒人による革命であって、一時的に大規模な混乱に陥ったが時間が経過してみれば結果的には成功しているという意見もある。
『ジンバブエは土地を取り戻す』という本を著したジョセフ・ハンロン(Joseph Hanlon)博士とかその意見。
クーデター後にもこんな記事を書いてる。
「Land reform is a Zimbabwe success story – it will be the basis for economic recovery under Mnangagwa」
ジョセフ・ハンロン博士の意見に真っ向から対立するジンバブエ大学のトニー・ホーキンス(Tony Hawkins)経済学教授と、『ファストトラック土地改革プログラム』の成否を巡る論争があったりして。
研究テーマ対象としては面白いかもしれない。