久しぶりのティグレ

スポンサーリンク

つい先日、ティグレ虐殺調査委員会(The Commission of Inquiry on Tigray Genocide)が、『 War-Induced Genocidal Sexual and Gender-Based Violence in Tigray, Ethiopia(エチオピア・ティグレにおける戦争に起因するジェノサイド的性暴力及びジェンダーに基づく暴力)』と題する調査報告書を発表した。

4年前には、エチオピア人権委員会(EHRC)と国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が共同で『国際人権法、人道法、難民法違反疑惑に関する合同調査報告書』を出しているが、ティグレ虐殺調査委員会(CITG)の報告書は最新で、戦争犯罪の中でも特に性暴力に焦点を当てている。

ブログを振り返ってみると、3年前に『エチオピア情勢(2022年9月)』を書いてからティグレ戦争には触れていない。

2020年11月3日に開戦した、ティグレ戦争。

2022年11月3日にプレトリア合意で停戦するまでに、推定60万人(幅:35万~80万人規模)が死んでいるが、日本では全くと言っていいほど報道されなかった。

前にも書いたが、民族連邦主義のティグレ州(TPLF(政党)/TDF(軍事組織)) vs 中央集権化したいアビィ首相(エチオピア連邦政府)の内戦だった…

通信・物流・人を完全遮断して世界からティグレ州を隔絶させて戦争をしていたので、「いま何が起こってるか?」わからず、マスコミもニュースにしづらかったというのはある。

誰も入れないから、裏の取りようがない。

偶にニュースになっても、エチオピア政府に抵抗する“反政府勢力”的扱い。

いやいや、TPLFはアビィ首相になるまでエチオピアを27年も牛耳ってきたゴリゴリの“元”エチオピア政府そのもの。その軍事部門は、かつてエチオピア軍の中枢にいた“元”将軍たち率いる、そこら辺の小国より強力な軍。

江戸幕府 vs 明治政府の戊辰戦争みたいなイメージ?

戦争序盤では一気に優勢に立ったエチオピア連邦軍だったが、ティグレ側に巻き返されて一時は首都アディスアベバが陥落するんじゃないか?!ってくらいまでピンチに。

2021年末、連邦軍はトルコ・中国・イラン製の無人機(TB2/Wing Loong/Mohajer-6等)を実戦投入し、アディスアベバ直前まで迫ったTDFを空から押し返すことで主導権を奪還。

2022年、ティグレ州の要衝が次々と連邦軍側に落ちて、地上戦でもティグレ側に不利な情勢に。

お互いに疲弊して、痛み分けとして2022年11月に連邦政府側が優位の状態で“恒久的停戦”に合意。

ちなみに…

ティグレ戦争では、連邦政府の手先として、戦場の先兵としてティグレ州で悪行三昧だったアムハラ民兵FANO。

利用するだけ利用されて、ティグレが(一応は)落ち着いた今、アビィ首相の次なるターゲットにされ、今はアムハラ州が戦場になっている。

すでに2年が経つかな…

TDFは元エチオピア軍将校を中核にした準正規軍だったので“戦線がある合戦”だったのに対して、FANOはアムハラ州のただの民兵組織。

月とスッポンくらい軍事力に差があるが、FANOはゲリラ戦を展開していて終わりが見えない戦いに。すでにティグレ戦争くらい続いてる。

これが、2019年にノーベル平和賞を受賞したアビィ首相がやってること。

中央集権化のため敵とみなしたやつらを順番に武力で潰すべく、ずっと戦争してる。

さて、CITGの最新の調査報告書を見てみよう。

先に、CITGの立ち位置を明確にしておくと…

CITGは、ティグレ州政府が設置した地域主体の調査委員会。

国連機関でも連邦政府の法定委員会でもない、被害者側の当事者。委員は全員ティグレ人。

だから中立かどうか?ってなると、完全中立ではない。

ホントは、国連の人権専門家委員会(ICHREE)が中立的立場としてこの件を調査するはずなんだけど、エチオピア政府が委員の立ち入り調査を拒否。

ま、自分たちがやった悪行を晒そうとしてるわけだから嫌がる。

第三者による独立調査ができない空白を埋めるために、当事者だけど証拠の一次収集と将来の訴追・補償に備えたアーカイブ作りのために設置された委員会。

ということで、加害主体(連邦軍・エリトリア軍・FANO等)に厳しく、TPLF/TDF側の不法行為には甘くなるバイアスはかかってるでしょうね!というのは前提。

【調査枠】

ティグレ州6ゾーンの「到達可能地域」で、戸別訪問型スクリーニングを実施。主な調査期間は2022年7~8月、補完的な自己申告を2023年12月に追加。対象は原則女性・少女(15歳以上)だが、家族申告により15歳未満や男性被害にも触れる。調査票はGBVIMS/IASC準拠。

【到達規模】

推定対象166万6,769人のうち48万1,201人(到達率28.9%)にスクリーニング。うち自己回答85.3%、家族回答14.4%。

【主な結果】

到達回答のうち59.5%(286,250人)が何らかのジェンダーに基づく暴力(GBV)を経験。性暴力(レイプ・性的奴隷化・性暴行)58.2%(166,621人)、レイプ53.14%(152,108人)。被害は重層化していて、3種以上のGBV併発が34.73%。医療へのアクセス否定(破壊・人員不在・加害勢力の医療機関占拠等)も目立つ。

【加害者】

申告ベース。EDF(エリトリア軍)とENDF(連邦軍)が中核。レイプではEDF54.47%、ENDF35.66%、アムハラ(FANO等)4.88%、アファール0.02%、共同犯行も一定割合。

【具体例】

報告書の(PFD上の)P12に書いているのは、以下の内容。

加害者は様々な異物を用いて、人間性を奪い、屈辱を与え、意図的に生殖器官を傷つけ、不妊症を引き起こした。レイプ被害者のうち、約25.27%(15,804人)が様々な種類の異物挿入を受けた。詳細な聞き取り調査では、カミソリや刃物、銃剣、砂、固い土、ティッシュペーパー、コンドーム、釘、死んだヘビ、鋭利な金属、棒切れ、粗い石、汚れた布、ゴム、プラスチックなどの異物が一般的に使用され、膣や肛門に挿入された。性的暴力中の異物挿入は、被害者の生殖に関する健康に深刻な傷害をもたらし、身体的トラウマと長期にわたる医療ニーズの両方を悪化させた。

報告書のP31~32(PDF上のP47~48)を見ると…

爪とか、ペットボトルのキャップとか、いわゆるゴミを入れたり、熱湯を流し込んだり、

膣に突っ込まれていた釘の写真が載っている。

EHRCとOHCHRの共同調査報告では、多くが戦争犯罪/人道に対する罪に「該当し得る」として、継続調査・訴追を提言。ジェノサイド断定は避けてるのに対して、

CITGの調査報告では“ジェノサイド行為”として断定的。

ま、要はティグレの女性を恥辱するだけじゃなく、カミソリや釘、ヘビを入れたり、熱湯を流し込んで膣を“壊す”ことで子供を産めない体にすることが、広範囲に、組織的に、長期間行われていたのは“民族浄化”の意図があるからジェノサイド行為だという主張。

「女性を壊す」のではなく、「集団の未来(出生・共同体)を壊す」ための戦略的暴力。

あと「ほら、アフリカはやっぱり野蛮!」ってのは少し短絡的で注意が必要。

あえて殺さず、女性器を切ったり、焼いたりして子供を産めない体にするのはヨーロッパ(ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争)でも、アジア(ミャンマーのロヒンギャ)でも、地域を問わず歴史的に繰り返されてきた民族浄化の手段のひとつ。

アフリカが野蛮ってより、民族浄化が野蛮。

ティグレ戦争も、旧支配エリート=TPLF=ティグレ民族全体という同一視の中で、TPLFに対する歴史的怨恨が、ティグレ人全体に対する民族憎悪に拡大して「憎きTPLF(=全ティグレ人)を抹殺すべし」的な脳になって民族浄化しようとした…ってことかと。

パレスチナ人は全員ハマス!みたいな感じで、ティグレ人は全員TPLF!みたいな。

ティグレじゃない他の民族に対してだったら、ここまでやってたか?というと、オレはちょっと疑問。

加害側のENDF(エチオピア連邦軍)の最高司令官は、アビィ首相。

さすがノーベル平和賞を取ってるだけあって、民族浄化とか、やることが違う!!

中央集権化を強力に進めた先に見ている“大エチオピア”構想…その野望を隠そうともしない、アビィ首相。

海なし国エチオピアの悲願「海へのアクセス」を求めて、去年とか「沿岸国への武力行使も辞さない」なんて勇ましいことも言っていたが、今年になって「海へのアクセスを目的として紛争を起こすつもりはない」とトーンダウン。

今のところ可能性はかなり低い(やったらメリットを上回る代償を払って高くつく)が…色んな悪い要素が重なったら…ノーベル平和賞アビィ首相が率いるエチオピア軍が沿岸国に攻め込む可能性もないことはない。

国内で不満が爆発しそうになったら、外敵を“作って”ガス抜き&団結させようとするのは古今東西を問わない『あるある』。こうなると損得を度外視するから、やりかねん。

なにしろ、あのトランプも欲しがるノーベル平和賞をとってる男から。

アビィで貰えるなら、オレでも取れる気がする。

投げ銭Doneru

書いた人に投げ銭する

スポンサーリンク
広告(大)
広告(大)

この記事をシェアする

フォローする

関連コンテンツユニット
スポンサーリンク
広告(大)