前回の続き。
官能小説仕立ての旅行記を書くべく、連続で沢山の官能小説を読んだ結果…
なんだか気持ち悪くなってきた。
幼少期、クリームパンを「これでもかっ!?」というほど食べ過ぎてゲロって以来クリームパンが苦手になったのを思い出す。
手始めに読んだメジャー作品と、気になった表現を抜粋して紹介。
サタミシュウ『私の奴隷になりなさい』
壇蜜主演で映画化されたらしいが観ていない。SMを題材にした小説だが、ストレートな表現で書かれていて(オレが期待するような)比喩表現は特に見当たらなかった。
うかみ綾乃『蝮の舌』
第二回「団鬼六賞」大賞受賞作品。
蝮の胴体は挿入し続ける。剥き出した毒の牙で、内臓を喰い破ろうとしている。
ーそれでいい、もっと深く入ってきて…肉体が壊れるくらい、無茶苦茶にして!ー
壮絶な快楽が、内部の粘膜をめりめりと破っていた。泡立つ蜜液が洪水のように溢れ出し、肉の中で露出した快感の源を、また別の蝮たちが喰らおうと群がってくる。
「ぐぅっ、があぅぅぅっ!」
草凪優『どうしようもない恋の唄』
「この官能小説がすごい!2010」大賞受賞作品。
さらに一段ギアがあがれば、お互いに高まっては焦らし、焦らしては高まるという、駆け引きが始まる。快楽のリズムは寄せては返すさざ波のように繰りかえされ、ふたりは大河に漂う小船となって桃源郷へといざなわれていく。
宇能鴻一郎『むちむちぷりん』
芥川賞作家が書いた官能小説。
すぐにさっきの、ケイバの追い込みのシーンを、あたし、順に浮かべてた。
騎手の人、腰をゆすり立ててたわ。
少し、お尻をもちあげ気味にして、前かがみになって、夢中で。
馬もはずむようにして、騎手をゆすりあげ、つきあげてて。
胸が波うち、呼吸も、苦しそうだった。
さいごの追い込み、もう、上も下も、無我夢中。
口をあけ、苦しい息をはいて。
上げたり、下げたりのピッチが急に早くなって。
さいごのスパートは、もう、騎手も馬も一体になったみたいで、歯を喰いしばって、必死で。
そうして、一気に、ゴールに駆けこんだんだわ。
騎手は、馬体の上に、がっくり、とつっぷしたままで。
騎乗位を競馬に例えた表現だが…そんなことより句読点が多いのが気になるっ!!
他にも…マルト・ブロー『黒衣の下の欲望』、橘真児『あやしい放課後』、牛次郎『悦楽の魔指』、三枝四郎『魔悦の誘姦』、瀬川信『魔虐の館』、大石圭『奴隷契約』、藍川京『同窓会』、綺羅光『姉と女教師』などなど読んだ。
タイトルも含めてだけど、傾向としては単語に“魔”とか「淫唇」や「淫液」など“淫”とか“痴”とか付いていがち。
逆に言うと、“魔”や“淫”や“痴”を付けた造語を作って文中で使えば、官能小説っぽくなるんじゃねーか?と。
飛馬の魔球を淫棒で下から一気にこすりあげた。
「あぁぁぁぁぁぁっ!! イ、イクゥゥゥーー!!」
打った瞬間バックスクリーンへ「行く!」と叫んだ野球の話なのか?そもそも何の話をしているのか?“魔”と“淫”のせいでよく分からなくなる。
後は…困ったときの『喘ぎ』頼みね。
うかみ綾乃の「ぐぅっ、があぅぅぅっ!」とかあるくらいだから、基本的には何でも良さそうな気はするがするが、意外とそうでもない。
痴肉がひとりでに収縮していく。わななく脚が、背中をきつく挟み込む。
「ぼげぶげ ぺぷちゃべ はぶらばら びィえ かぴぷ あぶた びぎょへ!!」
脳裏で、白い閃光が爆ぜた。
女性がオーガズムに達した時の表現を、『北斗の拳』からケンシロウの百裂拳を食らったボルゲが全身破裂する時の断末魔に置き換えてみた。
ボルゲが“逝く”時の叫びなわけだから「イク、イク」繋がりで一緒だろ?!と思うが、どうしても違和感は否めない。
日本語だと基本的には『あ行』でまとめた方が良さそうだ。
きれぎれに快感のこもった喘ぎを洩らして、たまらなそうにのけぞったり腰を振ったりして悶えていたが、
「あぁぁぁぁぁぁっ! い、いいっ…うっっ!」
というなり膝をガクガクふるわせながらくずおれていった。
不思議なもので、日本語使いが“喘ぎ声”として認識する発音にはある程度の範囲があるようだ。言語学的な話なんだろか?
きれぎれに快感のこもった喘ぎを洩らして、たまらなそうにのけぞったり腰を振ったりして悶えていたが、
「オーイ…オーイ…スィアウチャンルーイ!!」
というなり膝をガクガクふるわせながらくずおれていった。
こう書いたところで、日本語使いの読者は「は?」となってしまう。
日本語だと「あぁぁん」とか「はぁぁん」とか「うふぅん」とかある程度決まった範囲内に収めておかないと共通認識としての“喘ぎ声”にならない。
「スィー…スィー…」
つまようじでシーシーするみたいに、歯をかみ合わせたまま息を吸うと出る音が喘ぎ声の国だって実際にあるのだが…
たまらなそうにのけぞったり腰を振ったりして悶えて、きれぎれに快感のこもった喘ぎを洩らした。
「スィー…スィー…」
と書いても伝わらない。日本では「スィー」が喘ぎ声として認識されていないからだ。
逆に言うと、日本語使いが“喘ぎ声”として共通認識しているような発音をわざと使うことで、官能小説っぽくすることが出来るんじゃないか?と。
さて、読んだ色々な作品の中から気になった表現をピックアップしてみる。
「青竜刀のように反りかえった肉棒」 「灼熱のピストン運動」 「腰骨がはずれそうになるくらい痺れる」 「不気味な肉塊が秘口へ狙いをつけている」 「ヨダレを垂らしている肉根を…肉孔にねじこんで」 「大きな剛棒で」 「生温かい大きな蛤のようにぬめぬめとした感触」 「くりくりとした尻の双丘の狭間に、二つ割りにしたホットドッグ用のパンみたいに陰阜がこんもり盛りあがり、割れ目には新鮮なハムみたいな肉唇がはみでている」 「見事なまでの肉の構造だった。幾重にも折りたたまれた肉層とピンクの肉壁…」「なんじゃそれ?!」と思うような突飛な形容だったり、謎の比喩表現だったりしても、官能小説ではそれが何を暗示しているか?は簡単だ。
それが「官能小説というもの」という大前提があるのもそうだが、書き手の意図も、読み手の期待も『エロス』というゴールを共有しているから成り立っている。
ほぼ『性行為』と『肉体部位』の描写に集約される。
『肉体部位』と言っても、女性の胸とか性器とか、部位数としては片手で収まる程度の大したことない数だ。
美しい貌の両側にせり出した突起がピクっと震え、穴からドロッとした淫液が溢れ出してきた。
「い、いやぁぁぁっ!! は、はずかしい…わたしの耳をみないでっ!!」
官能小説で耳に関するこんな表現は出てこない。
それに、耳から液体が出てきたら…それはもう中耳炎だ。
つまり…その描写が何を暗示しているのか?読み手がそこから何を連想するかと考えた時に、目指すべきゴールは『性行為』と片手で収まる程度の数の『肉体部位』だけで済むと考えることも出来る。
中指と薬指をずぶっと入れ、びちゃびちゃと淫靡な音をたてながら激しくかきまわした。
「は…はぅぅぅぅっ!!」
いやいや…お椀に入った味噌汁を指でかき混ぜる話なんですけどっ!!
味噌汁の熱さに悶えただけですけどっ!!
硬くそそり立った黒い塊を根元から支え、ゆっくりと口へと運ぶ。いや、口の方から迎えに行ったと言った方が正しいかもしれない。
紅唇からちょろっと出した舌で、先端をぺろりと舐めた。
「あっ…」
舌で味を確かめた後は口をすぼめて咥えこみ、顔を振って律動を刻みはじめた。そのたびに塊は口内の唾液で濡れてぬらぬらと光沢を帯び、その黒さに凶暴さを増していく。
いやいや…チョコアイスバーを食べる話なんですけどっ!!
アイスの冷たさに「あっ」と驚いただけなんですけどっ!!
何をもってエロスと感じるか?というベースの部分は、ある程度の共通認識の元にないと成立しない話ではあるけど…官能小説仕立ての旅行記、できないこともなさそうな気はする。
困ったら「ひぃぃぃーーーっ!!」とか「あぁぁぁぁぁぁっ!!」とか適当に喘ぎをブチ込んでおけば何とかなんだろ?