エチオピアのティグレ州で起こっている内戦だが…
国連人道問題調整事務所(OCHA)のトップであるマーク・ローコック人道問題担当国連事務次長の最近の言葉を借りれば「はっきり言っておくと、紛争は終わっておらず、状況は改善していない」状態。
国連安全保障理事会では何度もティグレ問題について話し合ってはいるようだが、ロシアと中国の反対もあって今のところ軽く「懸念」を表明したくらい。
内戦ぼっ発の去年11月の段階で隣国エリトリアが軍を派遣して介入していることは公然の秘密だったものの…
あれほどエリトリア軍の介入を否定してきたエチオピアのアビィ首相が今年3月についに認め(エリトリア側は認めていないというかノーコメントを貫いている)、「エリトリア軍の撤退で合意した」と発表してから早2カ月が過ぎたが…
エリトリア軍は未だに居座り続けている。
ティグレ人民解放戦線 (TPLF)の軍事力を考えるとエチオピア軍の手に余るってことで、アビィ首相が隣国のエリトリア軍を自国領内に呼び込んでまで介入させたんだろうけど…
じんわりと遺恨を残して、後々まで尾を引きそう。
ティグレと関係のないエチオピア国民でも『実は自国領内でエリトリア軍が軍事行動をしてる』って知ったら絶対に良い気はしなさそうだけどな。
オレの中でエチオピアとエリトリアなんて犬猿の仲もいいところで、実際に30年間も戦争してたくらい仲が悪かったのは事実だし。それがねぇ…日本と北朝鮮が急に仲直りしたと思ったら、わずか2年後に日本政府がこっそり北朝鮮軍を日本国内に呼び込んで一緒に軍事行動してたレベルのちょっと有り得ない話。
敵の敵は味方なんだろうけど、むちゃくちゃリスキーなことしてる。
エチオピアが「もう撤退してくれ」とお願いしたとしても、実はエリトリア軍は撤退する気なんかないんじゃないか?というね。“アフリカの北朝鮮”エリトリアが、何のリターンも得られないのに血だけ流すボランティア精神で軍を派遣するわけがない。
5月26日付ブルームバーグの記事『Ethiopian Army Chief Asks Eritrea to Withdraw Troops From Tigray』では、エチオピア国防軍のビルハヌ参謀総長が「エチオピア領土から全軍を撤退させるよう(エリトリアに)書簡で求めた」らしいが、あれ?2カ月前にアビィ首相は「エリトリア軍の撤退で合意した」って発表してたけどな。
他国の軍を自国領内に呼び込んだが運の尽き、帰ってくれない状況なんじゃ…
さて、直近の動きで言うと…
4月:エチオピア正教のマティアス第6代総主教が「ティグレ州で起こっている大虐殺」とエチオピア軍を非難。ちなみに、マティアス総主教はティグレの人。
5月19日:アメリカの上院でティグレ州での停戦や人道支援の自由、エリトリア軍の撤退を求める決議第97号が可決。
5月23日:アメリカのブリンケン国務長官が当事者たちの入国制限や経済・安全保障支援の制限などの制裁を発表。
5月24日:エチオピアが「内政干渉だ」とアメリカの制裁に反論。
5月29日:エジプトとスーダンが陸海空の3軍合同軍事演習『ナイルの守護者』を実施。
EUも人道支援以外の援助を凍結したりと制裁を課したりしているが、アメリカもEUも特に問題視しているのがティグレ州における人権侵害。
エチオピア軍、そして特にエリトリア軍が、ティグレ州内で組織的に性的暴力や超法規的殺人を行っているとされる。
The Guardian紙『Rape is being used as weapon of war in Ethiopia, say witnesses』(レイプはエチオピアで戦争の武器として使用されている) The Guardian紙『‘Bodies are being eaten by hyenas; girls of eight raped’: inside the Tigray conflict』(遺体はハイエナに食べられ、8才の少女はレイプされる) AP通信『’Our season’: Eritrean troops kill, rape, loot in Tigray』(エリトリア軍がティグレ州で殺人、強姦、略奪) ロイター通信『Sexual violence being used as weapon of war in Ethiopia’s Tigray, U.N. says』(エチオピアのティグレ州で戦争の武器として使用されている性的暴力)「血まみれのタオルに身を包んで意識がほとんどない40歳の女性。15人のエリトリア兵によって1週間以上にわたって繰り返し肛門と膣を輪姦されていた」とか、「8才から72才まで意図的にレイプをしている」とか。
どうやら、色々な報道を読む感じだと…エチオピア政府はもはやエリトリア軍をコントロール出来ていないようだ。
元々が他国の軍なんだから“コントロール出来る”というのも変な話だが、エリトリア軍はありとあらゆる物を(人道支援物資も)略奪したり破壊したり、独自に幹線道路沿いに検問を設置したり、もはやエチオピア政府の意向など関係なくティグレ州内でやりたい放題やってる様子。