以前ひさしぶりに音楽の話を書いたら気分が乗ってしまい……
またまたアフリカの音楽の話。
3年くらい前だろか?
ナイジェリアと南アフリカの間で激しい論争が起こった。
「アマピアノはナイジェリアのものじゃない!南アフリカのものだ!」
という音楽文化盗用論争である。
すごーく雑に言えば……
ナイジェリアは「アフロビーツという巨大なポップミュージック組立工場」
南アフリカは「アフロハウスやアマピアノという強力なクラブミュージック研究所」
アフリカの現代音楽はこの2つが大きな震源地。
そもそもアフロビーツ(Afrobeats)は、純音楽的には流行要素を吸収して融合する抽象的なジャンルで、K-POPみたいなもん。
そういう意味で“組立工場”。
固有の音があるジャンルではなく、最初から色んなジャンルの音楽を、流行りの音楽を吸収して大きくなった。
西アフリカのナイジェリアやガーナ辺りで流行りのポップミュージック群を、ざっくりと『アフロビーツ』と呼ぶが、音楽ジャンルとしてきっちり定義するのは難しい。
耳に残るフレーズを繰り返すフックが特徴だけど、全部が全部そうというわけでもない。
極論を言えば「それっぽい」とか「アフロビーツを名乗ってる」なら、それはもうアフロビーツ。
つまり、アフロビーツは(K-POPのように)流行要素を吸収・融合する抽象的なジャンルだから、パクりか?吸収・融合か?という線引きは微妙になる。
「なんか南アでアマピアノとかいうハウスミュージックが流行ってるから取り入れようぜ!」
と、どんどん取り入れて自分たちの音楽として流布する。
そもそもが、そういうジャンル。
ここからややこしいのだが……
世界のポップ音楽市場で先に流行ったのはアフロビーツだ。
もちろん南アフリカの音楽も世界的に知られていたけど越境の中心が主にクラブ/ダンスであって、ポップ音楽の市場とは規模が違う。
2010年代半ば頃からアフロビーツは世界市場で存在感を高めていたが、その地位を一段階上げたのがナイジェリアのRemaが出した『Calm Down』のメガヒット。
全米チャートで3位になり、アフリカ発のポップソングとしては歴史的ヒット曲に。
そんな、先に世界のポップ市場で地位を築いたアフロビーツが、次なる“流行り”として南ア発の音楽ジャンルであるアマピアノを取り込んだ曲を出すとどうなるか?
それが世界的に広がれば広がるほど「アマピアノを誰が作ったか」より「誰が世界に広めたか」が目立つようになっちゃう。
国際的商業化という点では優位なナイジェリアが前面に出ちゃって、南アフリカからしたら「このジャンルを作ったのはオレたちなのに、なにを自分たちの音みたいにしてんだ!」という感覚に陥りやすい。
ジャンル論というより文化産業論の話。
それに加えて、音楽とは全く関係のない、お互いアフリカの大国としての意識が絡まって問題をこじらせた。
「あいつらナイジェリア人だからな……」みたいな意識。
音楽的な側面と、文化的な側面と、お互いのプライドが絡み合って大炎上したと。
アマピアノ論争が最も熱を帯びていた頃、ナイジェリアのアフロビーツ・スターAsakeが新曲を出した。
大胆というか、不遜というか……
曲のタイトルはずばり『アマピアノ』。
火に油を注ぐような決定的なことをしたうえに、この曲は第66回グラミー賞の「最優秀アフリカン・ミュージック・パフォーマンス賞」にノミネートされた。
そして実際に受賞したのは……
最近、ナイジェリアのTEMSは、2~3年前から南アで流行っている3-step(アマピアノのサブジャンル)を取り入れた曲を出した。
彼女は売れたきっかけがアフロビーツだったけど、今やアフロビーツ歌手ってよりは、リアーナやドレイクとも仕事をするR&B歌手と言った方がいい気がするが……
彼女のこの曲は南アの3-stepをパクったアフロビーツ曲か?というと、表面的にパクったというより取り込んで自分のものにしている。
一方、南アフリカはTylaの最大のヒット曲『Water』。
TikTokでのダンスチャレンジをきっかけに世界的なバイラルヒットになった。
面白いのが、この曲はBillboard Music Awardの2024年Top Afrobeats Songに選ばれている。
トップ“アフロビーツ”ソングだ。
欧米での曲説明は「An amapiano song with elements of pop, R&B and Afrobeats(ポップ、R&B、アフロビーツの要素を取り入れたアマピアノ曲)」だ。
ロイターとかガーディアンなんかでも「ポップ、R&B、アフロビーツの融合」と書かれている。
西アフリカのアフロビーツに乗っかりやがって!という話でもない。
ここで言う“アフロビーツ”って、もはや厳密なジャンルじゃなくて「アフリカ発ポップ」的な意味で使われちゃってる気がする。
翻訳すると「ポップ、R&B、アフロビーツ(歌メイン)の要素を取り入れたアマピアノ(クラブ)曲」みたいな?
要するに、アフロビーツは先にグローバル市場で「アフリカ発ポップ」の主導権を取った。そのせいというか、そのおかげというか、「アフリカ発ポップ」の総称がアフロビーツみたいな使われ方をしている。一方のアマピアノは先に「アフリカ発クラブ音楽」として広がった。
Tylaはそのアマピアノを、アフロビーツ的な“歌もの”にしてグローバル仕様にポップ化してスターになった。
実際、ポップ化したことで耳にはアマピアノってよりアフロビーツっぽく聞こえる。
Tylaはこの曲で、ナイジェリアのAsakeが出した『Amapiano』を抑えて、本家アマピアノとして第66回グラミー賞の「最優秀アフリカン・ミュージック・パフォーマンス賞」を受賞した。
受賞スピーチやインタビューで、一貫して「私は南アフリカ出身で、アマピアノを代表している」と強調。ナイジェリア勢に押され気味だった「アマピアノの顔」というポジションを南アフリカ人が奪還した瞬間でもあったわけだ。
同時に、Tylaの成功の下地になっていたのは、先にグローバル市場で「アフリカ発ポップ」として成功していたアフロビーツの存在があったのも事実。
南アが「アマピアノをナイジェリアが盗用している」と怒るとき、実は言っているのは「ビートを丸パクリしてる」ではなく、“うちが発明したのに、国際市場ではあっちの方が大きく見えてしまう”という不満。
そんな不満も、Tylaという本家アマピアノから世界的スターが生まれたことで気持ちが落ち着いたのか?「アマピアノは誰のものか」論争も下火になった。
今は、アフロビーツとアマピアノはコラボや共存のフェーズに。
大炎上があったせいで現在の共存フェーズがなにか急接近したみたいに感じるが……
実は昔からナイジェリアと南アフリカの音楽は、お互いに影響し影響されの共存関係にあった。
例えば、南アフリカのMafikizolo。
ナイジェリアと南アフリカで激しい論争になる何年も前に、“アフロビーツ曲”を出している。
マフィキゾロ自身がインタビューで言ってる。
「自分たちをポップ/アフロポップグループと位置付けているからこそ、自らの本質を損なわずに新しいサウンドを取り入れることの重要性を信じている。アフロビーツ・サウンドにも挑戦し『Love Potion』のようなヒット曲を生み出せた。常に新しい才能とのコラボを重視し、新しいサウンドを実験的に取り入れつつも、そこに自分たち独自の雰囲気を融合させている」
パクったパクられた論争のずっと前からお互いに影響し合い融合し合っていたのだ。
そして面白いのは、アフロビーツの中心にいるナイジェリアやガーナの周辺、アフロハウスやアマピアノの中心にいる南アフリカの周辺。
モザンビークのYaba Buluku Boyzは良い例で、自らの音楽を「アフロビーツとアマピアノの融合」と明言。その目的をcrossover reach(越境して届く力)と説明してる。
アマピアノのクラブ的ビートは土台として残しつつ、アフロビーツの“歌もの”として曲を設計。
曲によって東アフリカ向けにボンゴ・フレーバー(東アフリカの音楽ジャンル)っぽいメロディにしたり、固定したジャンルではなく越境しやすい形で出荷。
モザンビークもまたパクりというより、ポップ化・汎アフリカ仕様にして越境化するのが上手い。
南アフリカは国内で次々とサブジャンルが枝分かれして“クラブミュージック研究所”的な前衛性では圧倒してるけど、アフリカ大陸に横断的に広げられる力という点ではモザンビークはかなり強い。
かなり雑に言えば、土台は南アフリカ産ビートで、アフロビーツっぽく耳に残るフレーズを繰り返すフックが特徴の“歌もの”曲が、大陸を横断してヒットしやすいフォーマット。
これに地域別の言語とかメロディが絡んでくるが、フォーマットとしては強い。
もちろん大陸は広いからそれが全てじゃないけど。
独自色が強すぎて、アフロビーツ、アマピアノどちらにも引っ張られないエチオピアのようなところもたくさんある。
