ダハムとミラ

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バズりネタが大好きなミーハーです。

さて今回は、国内にとどまらず国外にまで広がり始めているバズりネタを。

1週間ほど前からこんなネタがSNSでバズっている。

ミラという女性が持っているイエメンの首都サナアの不動産を巡って、フーシ派と部族の間で緊張が高まっている。

ミラは、自身をイラク大統領だった故サダム・フセインの娘だと主張。

2003年のイラク戦争後、当時のイエメン大統領サーレハはミラに首都サナアの高級住宅を与え、安全上の理由からスマーヤという偽名でイエメンの身分証を用意した。

2017年12月、フーシ派はサーレハを殺害。その後、サーレハやその親族、近しい者たちから資産を没収したが、その中にミラが長年住んでいた自宅も含まれていた。

ミラは没収された資産を取り返そうと努力してきたが成功しなかった。

そこで彼女は、イエメン最大のバキール部族連合の、アル・ジャウフ県を拠点にする有力部族ダハム族のシェイク(長老・指導者)であるハマド・ファドガムに“髪を切って”助けを求めた。

シェイク・ハマドは部族の誇りと「虐げられた女性を保護する」という掟のためにミラを守ることを宣言し、フーシ派に対して資産の返還を要求。

庇護のためミラを連れて本拠地アル・ジャウフ県に戻る途中、首都サナアの検問所で2人はフーシ派によって拘束・連行。これにダハム族とバキール部族連合が激怒し、国民の間でもフーシ派に対する反発が強まっている。

イエメンや中東ではバズってるのに……

なぜか日本で全然バズってない!!

これが、ミラが髪を切ってダハム族のシェイクに請願している動画。

なお、イエメンにおいて女性が髪を切ってシェイクに助けを求める伝統的行為は、非常に強い保護と正義の請願方法で、これを受け取るということはもはや個人的問題ではなく部族の問題になり、戦いになろうが部族として庇護し介入する義務が発生する。

“義務”というのは法的にどうこうの話ではなく、名誉として、部族の掟として、という話。

男たちが腰に刀を差してカラシニコフを持っているが、内戦中だからではない。北部では平時からこのスタイルが普通。スマホを持ってる感覚で、普通にカラシニコフを持ち歩いてる。

男の身だしなみ。

このバズりネタ自体は信憑性としては50%、話半分に聞いておいた方がいい類いというか、何かしらのプロパガンダ臭がする。

ただ、完全にフェイクでもなく、“ストーリー”としては色々と興味深い。

まず、ミラは本当にサダム・フセインの娘なのか?というのが最大の謎。

公式にはサダム・フセインの娘は長女のラガド、次女のラナ、三女のハラの3人。

必然的にミラは隠し子ということになる。

ミラ本人は、エジプトで受けたDNA鑑定の結果(99%一致)を出しているが、イエメンの裁判所は偽造認定している。ちなみに裁判所はフーシ派の支配下にあるので、公平な裁判は期待できない。

サダム・フセインの長女ラガドは、ミラの主張を否定。フセイン家の家系図にミラなる人物の記載はないと言ってる。ま、隠し子ってそういうもんだからな。

サダム・フセインの娘は自称の域を出ないが、『自称サダム・フセインの娘ミラ』自体は実在する。載っけたInstagramのリール動画以外にもTikTokやXでミラは“フーシ派の非道”を訴えている。

このキャラクターはストーリー上で重要だ。

まず、フーシ派による資産接収は日常で、ミラのようなイエメン人女性なんていくらでもいるはずだか、それでは誰も注目しない。

『サダム・フセインの娘』という象徴性が大きい。

イエメン人にとっては客人である。その客人が、ただ助けを求めているのではなく、「髪を切って」助けを求めて来た。

この時点で、事実かどうかは別として掟的というか感情的には「戦ってでも守る」ことが正義になり、それに対してフーシ派は悪になる。

プロパガンダ臭がするのはこういうところ。

そして、バキール部族連合の有力部族ダハム族が登場するところも、なかなか良い線。

このストーリー自体に「ありえる!」と信憑性を付与するための最適な設定というか。

イエメン最大の部族連合、バキール部族連合。

その有力部族であるダハム族は、「赤のダハム」や「流血のダハム」の異名を持つ歴戦の戦闘部族。

そのシェイク(指導者)であるハマド・ファドガムも実在する。

ただ、イエメン北部の部族で“戦闘部族”じゃない部族なんているの?!って感じなので、そこら辺はどうでもいい。

問題なのは、今はダハム族とフーシ派が対立状態にあること自体は事実ということ。

事実としてのダハム族 vs フーシ派の対立構造に、真贋不明のサダム・フセインの娘を名乗る客人の話が乗っかることによって、妙にリアリティのあるストーリーになってると。

反フーシ派にとっては刺さる。

フーシ派が、もし二大部族連合を敵にまわしたら危ういのは事実。

ハーシド部族連合と、バキール部族連合。

そのバキール部族連合の支族ダハム族との敵対関係がエスカレートしてフーシ派 vs バキール部族連合に、もっとエスカレートしてフーシ派 vs 二大部族連合なったら⋯⋯という希望的観測がこのストーリーをバズらせている。

ま、そんなことにはならないだろうけど。

“部族連合”とは言っても全然一枚岩じゃないから、同じ部族連合のダハム族が戦っているからと言ってバキール部族連合全体が動くことはない。

規模が大きすぎて、広範囲すぎて、部族によって利害が違いすぎちゃって、まとまるのはほぼ不可能。

基本的には“自分のテリトリー内”の利害で動くから。

あと、フーシ派が敵対的なシェイクを暗殺したり、分断工作をしてるから、部族連合が一致団結するのはかなり非現実的。

もし日本でこのネタがバズっても、「フーシ派がついにバキール部族連合を敵にまわした!弱体化するぞ!」と盛り上げるのはどうなのかな?

という、話題を先取りした最先端の話でした。

投げ銭Doneru

書いた人に投げ銭する

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