久しぶりに南アフリカの音楽について書いたので、ブルガリアのチャルガについても書いておくか。
低俗なものも好物の高雅なオレが、かつて注目していた音楽ジャンルだ。
インテリからは「低俗な音楽」とこき下ろされていたチャルガが、ある意味でお下品のピークというか……お下品黄金期だったのは2010年前後。
チャルガ歌手が歌うのは、セックス、金、酒。
そりゃあ、低俗と言われるわな。
いかに過激に攻めるか?で当時のチャルガスターたちが競い合っていたのがお下品黄金期。
2009年発表のカメリアの『Оргазъм』(オーガズム)なんかはお下品黄金期の象徴だろう。
「今すぐに私の中に入って来て」からの「あなたが私の中に入ってる!」という、まんまセックスについて歌ってる曲。
アンドレアの『Употребена』(中古とか、使われた、利用されたの意)もまた直接的な歌詞で、当時のチャルガを象徴する一曲。
「私の体を貸してあげる、何回したいの?」とか「私を使い切って」「モノのように扱って」と歌う、なかなかの歌詞で物議を醸し、大ヒットした。
アンドレアはこの他にも『Секс за ден』(一日限りのセックス)という、ひねりも何もないどストレートなタイトルの曲もある。
「一夜の情事、感じる喜びはあるが、そこに愛は決してない」とか「好きな女と寝てもいい、彼女たちと楽しくなってもいい、快楽を味わってもいい」と、ワンナイトを何のひねりもなく歌った曲だ。
比喩を使わず、略奪愛や浮気を煽るような歌詞や、剥き出しの性的欲求をどストレートに言葉にしながら、ほぼ下着で歌う“無法状態”が、お下品黄金期の特徴。
ジェニや、テオドラと言った複数のチャルガ歌手が『Секс』(セックス)という同名タイトルの別曲を出している。
もう少しひねれよ!とは思うが、全然ひねらないのもお下品黄金期の特徴。
ちなみに、ジェニの『Секс』は、歌詞の大部分が「セックスが必要」「今すぐ抱いて」と肉体的欲求を連呼する曲。テオドラの方はちょっとわからないが、たぶん内容に大差ないはず。
もちろん全部が全部そうというわけでもなく、比喩もちゃんとある。
男性チャルガ歌手クルムと、女性チャルガ歌手デボラとクリスティアナの3人でコラボした『Буба лази』(虫が這う)。2010年のヒット曲だ。
一見するとよくわからないタイトルだが、「Буба лази」はバルカン諸国でわらべ歌や手遊びのフレーズで、日本で言うところの“こちょこちょ”みたいな感じ。
虫さんトコトコからの~こちょこちょ!!の流れでワンセット。
それを愛撫や前戯の比喩として使っている。
ちょっとだけひねって、子どもでも知っている日常ワードをいかにエロに使うかというお下品黄金期らしい低俗な一曲である。
他にも古典的なので言えば「Сладолед」(アイスクリーム)はほぼ100%性的な意味合いで使われ、お下品黄金期のMVではしつこいくらいアイスクリームをペロペロしているのもある。
あとは「Любеница」(熟れたスイカ)は、「このスイカは熟していて甘い」とか「中身を割って確かめて」といった使われ方をする。女性の胸とかお尻の比喩。
「Чук」(ハンマー/叩く)もそう。男性器の比喩や、サビで「Чук, чук」(チュクチュク=トントン)言ってたら、それは激しいピストン運動を比喩してる。
これは芸術か?ソフトポルノか?
ブルガリア国内で大いなる議論になっていたお下品黄金期だが、あれから年月が経ち今のチャルガは変化している。
世代交代と、環境の変化である。
チャルガの女王カメリアなんて今年で55才。
55才なんて、オーガズムによる震えなのか?加齢による震えなのか?わからなくて、「大丈夫ですか?!お医者さん呼びましょうか?!」とこっちが心配になっちゃう年ごろである。
“過激でセクシー”なアイコンだったアンドレアも、伝説の大スターであることには変わりないが、チャルガ歌手として見れば完全にピークは過ぎている。今でも新曲は出しているが、チャートに入ることはもはやない。
これまで自分の性を商業利用化していた人ほど、加齢による商業価値の低下が目立っちゃう。
お下品黄金期を支えたチャルガスターたちは、一部を除けばもはやひとつ前の世代になった。
“誰が一番過激か”で競い合っていた放送禁止ギリギリを攻めるやりすぎチャルガお下品黄金期を過ぎて、今は環境が変化してる。
自主規制である。
かつて主戦場にしていたテレビでも、あまりにお下品なのは放送されなくなり……
その後のYouTubeなどの動画プラットフォームやSNSのガイドラインを意識して、過激さを追求する路線は影を潜めている。
あまり露出を高めて垢バンされても困るから。
さらにチャルガ自体の社会的地位が向上。
お下品黄金期は“地下音楽”は言い過ぎにしても、(実際はそんなことないが)「お下劣なエロ親父しか聴かない低俗な音楽」扱いだったのが、今や国民的ポップスになった。
スポンサーを意識して「セックス!チュクチュク!うぇーい!」みたいなアホ丸出しの歌詞ではなく、表現をマイルドに、肉体的なことより内省的なことを歌うように。
かつてのお下品黄金期が「誰が一番過激か」でメインターゲットに異性を意識していたのに対して、現在は「誰が一番おしゃれで共感してもらえるか」で同世代の同性を意識したスタイルに。
過激なエロ追求でセクシーアイコンを目指すスタイルから、ガーリーなポップ路線化でZ世代に憧れられるファッションアイコンを目指すスタイルに変化。
新世代のチャルガ歌手キアラ(金髪)とヴァヤ(黒髪)のコラボ曲。
過激なセクシーさをあえて抑えて、清楚系セクシーで売る戦略らしい。
そ、そうなのか?
こちらは、お下品黄金期を支え今も第一線で活躍するエマニュエラと、新世代のキアラ&ヴァヤのコラボ曲。
エマニュエラは昔からこんな感じだから別にいいとして……
清楚系の定義って何ですか?
もはや電磁波クラブじゃん。
セリナは、キアラやヴァヤよりもさらに若いキッズ層に向けた次世代スター候補。
キッズ向けに露出を抑え目にしているぅ……(棒読み)
なお、現在のチャルガはバルカン・トラップと呼ばれる音が主流。
2010年代後半からバルカン諸国で爆発的に普及した音楽スタイルで、アメリカのトラップ・ミュージックとチャルガを融合させたハイブリッド。
808ベースと、細かいハイハットのトラップ的リズムに、チャルガ的なオリエンタルな雰囲気のヒジャーズ音階を多用したスタイル。
新世代チャルガの筆頭格で、アイドル的人気を誇るリディアの曲『ОСТАВАШ САМ』(あなたは一人になる)はまさにバルカン・トラップ。
スピーカーを震わせるような重厚な808ベースに、チャルガ特有の“泣き”のメロディを乗せて・・・・・・露出も全然高くないっ!!
ちなみに、低俗なものも好きな高雅なオレは、古き悪しきお下品チャルガ黄金期が好きである。
芸術か?ソフトポルノか?なんて論争するまでもない。自己表現ならまだしも、エロの過激さを“競い合ってる”時点で、芸術ではないだろ。
キッチュな音楽だけど、間違いなく一時代を築いたのは確か。
そんなお下品チャルガ黄金期のCDやDVDを、当時わざわざブルガリアから個人輸入してまでけっこう持っている。
ただコレクターとして持っているだけで、DVDなんて再生したことがない。
見たいとも思わない。
おじいちゃんになったら「かつての東欧でこんな低俗な時代もあったんじゃぞ」と、通りすがりの子どもに見せつけるくらいしか用途がなさそう。
すぐ通報されそう。
