トロフィーハンティング【3】

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前回のブログの最後で言葉足らずだった部分があるので追記。

経済的インセンティブ

経済的なリターンというインセンティブの仕組を考えた時に・・・

観光客数との連動ではなく、野生動物の個体数との連動で考えないと「保全の」インセンティブとはなり得ないんじゃないか?ということを言いたかったの。

野生動物は増えているのに、エボラ出血熱とかネガティブなニュースの煽りを食らって観光客数が減って経済的リターンも影響を受ける・・・ってなると意味なくね?という。

保全より観光客誘致した方がいいじゃん。

でもボツワナなんかは国立公園の入園料をあえて高く設定して入園者数をコントロールしようとしている。観光客が増えれば増えるほど環境に負荷がかかるからだ。増やせばいいというわけでもないみたいだ。

まぁ、やり方次第で色々と方法はある気もするけど・・・今パッと思い付いた限りだと誰しもが考えつきそうな、観光客と住民の間にファンドを噛ませて野生動物の増減と連動した分配をするとか。

自分がイメージしやすいように、調べやすかった2013年の南アフリカの数字を例にして考えてみると・・・

8,500人のトロフィーハンターが年間に狩った野生動物は44,000頭! その直接収入は10億ランドだから・・・とりあえず今のレートで80億円としよう。1人当たり94万円も金を落とすのね。

それをカバーするとなると・・・

訪南ア外国人の数は950万人だから、1人当たり842円。入国時に税金で千円取ればトロフィーハンティングの分をカバーできるが、税の公平性に問題ありでケチがつきそうだ。

その年に国立公園を訪れた人の数は24,330人だから、1人当たり33万円。国立公園の入園料にしたら訪れる人の数は減る→さらに1人当たりの金額が上がる→さらに減る、のスパイラルに陥りそう。それにしても訪問者数が少ないな・・・と思ったら、クルーガー国立公園など19の国立公園を運営するSANParksの統計だったから、民間のゲームリザーブも合わせたらもっと訪問者数は増えそう。増えれば増えるほど1人当たりの負担が減っていい。

セシルの件でトロフィーハンティング反対の署名をした人は世界に100万人超もいる! 1人当たり8千円、反対はするが負担は一切せず全て現地に押し付けるなんてことはないだろうから喜んで出してくれそう。ただ、これは南アフリカ1カ国だけの話だけど。

と、ここまで書いておいてなんだけど、こういう話はそもそもトロフィーハンティングが地元住民の野生動物保全のインセンティブになる側面を持っている場所もあるという前提での話であって、地元住民とか一切関係のない完全商業志向のトロフィーハンティングも存在するので話はややこしいのだ。それについてはまた後にして・・・

間引きの側面

お金(保全のインセンティブ)の問題とは別で、間引きの問題もある。

そもそも間引き自体に賛否両論があるのは置いておいて、トロフィーハンティングが頭数管理のための間引きの側面も持っている場合がある。

いわゆるワイルドライフマネジメントってやつのツールになってる側面。

トロフィーハンティングが禁止されて動物が増えたことでどうなったか?ということでボツワナの例を挙げたニューヨークタイムズの記事「A Hunting Ban Saps a Village’s Livelihood」と、その記事に反論したナショナルジオグラフィックのゲスト投稿記事「Opinion: Botswana’s Hunting Ban Deserves Better from the New York Times」みたいな議論が目的じゃないし、頭数管理の科学的、倫理的な是非の議論が目的じゃないので、トロフィーハンティングについて考える上でとりあえずは「頭数管理は必要」という前提にします。

ちなみにボツワナは、ケニアを除けばアフリカでは珍しく2013年からトロフィーハンティングを禁止(恒久的でもないし全面禁止でもないけど)してる。これは別に動物愛護の観点からではなく大統領が株主の観光業者ウィルダネス・サファリのビジネス上の利益のためという話も。ボツワナのサンデースタンダードの記事「Fight for Okavango Delta – Khama Caught in the Cross Fire」にその辺りが書いてある。

で、頭数管理の話。

すげーざっくり言うと、特定の種であるゾウを守ろうとしてゾウを保護する。1日2~300キロの草木を食べるゾウが増え過ぎて、地域のゾウ密度が上がると草木が食べ尽され、インパラとかボック系の草食動物が腹を減らして数を減らす。それを餌にしてた肉食獣が腹を空かせる・・・的なことで、ある特定種を守り過ぎることで生物多様性が失われるっていうんで「生物多様性の保全」という観点から間引きをするパターン。

もうひとつが、野生動物と人間の緩衝地帯で野生動物が増えて畑を作ってもゾウが来て食ってくとか、牛やヤギを飼ってたのにライオンが来て食ってくとか。

頭数管理のためにトロフィーハンティングの対象になるのは、群れに属していない一匹ものとか、家畜などを襲う”問題児”とか、年を取って生殖機能が低下しているくせに気性が荒いせいで若いオスの邪魔をするジジイとかとされている。

ホントにそうなのか?

ちなみにオレがもしトロフィーハンターだったら・・・とハンター視点で考えると、ヨボヨボなジジイのゾウと凛々しいゾウだったらどっちがいいか? たてがみがボロボロのライオンと立派なライオンだったらどっちがいいか? トロフィーとして飾るわけだから、当然ビジュアルがどうでもいいわけがない。

間引き対象の個体を選ぶ時に、ハンターの消費者心理に引っ張られて選んだら?

言い換えれば、間引き対象を選ぶ基準にハンターの好みというバイアスがかかったら?

建前では頭数管理のための手段としてのトロフィーハンティングが、実際にはトロフィーハンティングをするための手段として頭数管理の仮面を被ったことになる。

大前提

そもそもトロフィーハンティングを良しとする場合は、適正・公平に管理されて、科学的データに基づいていて・・・ってのが大前提になる。

でもアフリカだからな・・・

腐敗指数で言うと、アフリカの優等生ボツワナが日本と同じAランクでアフリカ最高位。

南アフリカ、ナミビアはまぁまともとしても・・・経済危機以降のジンバブエとか金の力で何とでもなりそうだしな。

オレがジンバブエに行ってた頃なんて経済危機のど真ん中だったけど、ジンバブエ軍が食糧不足だからって国立公園のゾウを狩って食ってるって新聞に出てたぜ。

あれだけボロボロになったら適切な管理も何もなかっただろうと思われる。

今は知らん。

砂漠ライオンの例

最後に・・・

ナミビアのカオコランドに砂漠ライオンがいる。

Lion Pride Documentary – The Realm of the Desert Lion | Namibia Safari Full HD

セスフォンテインからD3707号線をプロスに抜ける途中辺りが動画の砂漠ライオンたちの生息地だ。国立公園でも保護区でもない、ただの砂漠地帯。

道がとんでもねーし、山越えて谷越えても全然プロスに着かないし、オレも迷子になったかと心配しながら走ったとこ。

砂漠ゾウもいて、地中の水を掘り当てる能力を持っているのと、過酷な環境に合わせて大人でも他のアフリカゾウに比べて体が小振りらしい。

プロスでキャンプした時は、ゾウの足跡だらけの地面にドキドキしながらテントを張ったもんだ。砂漠ライオンは見ていないが、全体で150頭くらいが生息しているそうだ。

今年7月、こんなインターネット広告が出た。

「2017年限定!ライオントロフィーハント」

「この地域では約10年間ライオンの割当がなかったので、今回は非常に貴重なライオンのトロフィーをゲットするチャンスです」

売りに出されたのはケッベルという名前の砂漠ライオン。

国内外からの嘆願が集まり8月にナミビア観光環境大臣はケッベルのトロフィーハンティングを認めない決定をする。

トロフィーハンティングを逃れたケッベルだが、今月11月10日に地元住民に毒殺された。

ちなみに、上の動画は『五銃士』と呼ばれる砂漠ライオンの5頭の兄弟を扱ったドキュメンタリー映画だ。

もう五銃士は存在しないけど。

2016年7月にハリーが射殺(トロフィーハンティングではない)、8月にベン、アドルフ、ポーラの3頭が毒殺、今年4月最後の1頭タラモアが毒殺され『五銃士』はいなくなった。

実は、オレが行ったことがある場所は人間と野生動物の紛争地域だったのだ。

ライオンに襲われた家畜を守ろうとしたヒンバ族の男性もライオンに襲われた。ほぼ貨幣社会に生きていないヒンバにとって、家畜は日本人が思っている以上の存在だ。

オレが読んだ記事はヒンバだったけど、セスフォンテインだから遊牧している民族としてはダマラの方が多いかも知れない。

ライオンにGPSを取り付けて行動を常に監視し、ライオンの進む先に人間や家畜がいる場合、事前に人間に警告して衝突を回避するシステムを運用していた保護団体がいた。

遊牧している人たちにとっては敵であるライオンを大事にして観光客を連れてくるが、自分たちには一切お金を落とさない観光業者がいた。(実際は別として、そう思われている)

政府が許可しなかったことで出番はなかったが、(敵視している住民にとっては)ライオンを狩ってくれる上にお金まで落としてくれるトロフィーハンターがいた。合法がダメだったので非合法な方法で殺したと。

地域それぞれに地域ごとの状況があって(セスフォンテインの人間と野生動物との対立=アフリカ全部の話じゃないし、その逆でもない)、人間といっても色々な思惑がある人間がいて、地元住民にも保全派と排除派がいる。

トロフィーハンターがいる背景にはこんな状況も存在してるという一例。

プロスの北東にあるヒンバの集落。全体を柵で覆って野生動物からの襲撃に備えている。昼間は放牧に出ているが、夜は囲いの中に家畜を入れる。

ちなみに、この集落を訪れた日本人はNHK取材班、人類学研究者に続いてただの旅人であるオレが3番目だというヒンバのババア談(笑)

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コメント

  1. sen より:

    いつも貴重な情報発信ありがとうございます
    アフリカのトロフィーハンティングも興味深いです。また、今後のジンバブエも興味深いですね

  2. より:

    >senさん
    ジンバブエね・・・どうなるんでしょ? 与党、軍、退役軍人からも見放されているとされてる割に、未だ大統領の座にしがみつけるというのは何かあるのか?